放課後、学校帰り。
女の子A「木沢君、これ、バレンタインのチョコレート。きっともうたくさんもらってると思うけど、よかったら食べて」(うつむき赤面。逃げ出しそう。ピンクのりぼん。かわいい包装のチョコレート小さなお弁当箱サイズ)
光「(にっこり受け取る)ありがと。ねぇ、ここであけてもいい?」
女の子A「(顔上げる)え!? うん、いいよ」
光「(きれいに包装をといて、箱を開ける。一口サイズの手作りチョコレート×5)わぁ、おいしそ! そうだ、ね、目、瞑って」
女の子A「え? う、うん」(どきどきどきどき)
光「(チョコを1つつまみあげて、女の子Aの口元に運ぶ)どう? おいし?」
女の子A「(とろーり)うん・・・」
光「じゃ、僕もあとでゆっくり味わわせてもらうね。おいしいチョコレート、ありがとう」
女の子A「ううん。ありがとう、木沢君」(赤面したまま逃げさる)
光「(一粒チョコレートをつまみあげて口に運ぶ)あ、これほんとにおいしいじゃん」
葵「(桔梗と樒と放課後帰り)うーわー、みーちゃった、みーちゃった。光、お前その歳で何女の子もてあそんでんだよ。作った本人に味見させるなんて、さいてー」
光「(冷めた目で葵を見上げる)もてあそぶ? やだなぁ。あれはちょっとした僕なりのお礼だよ」
葵「あの子、絶対キスされたと思ってんぞ? ああいう顔の女の子は思い込むと激しいぞー。な、樒?」
樒「(後から桔梗と葵を追いかけてくる)な、なんでわたし?!」
桔梗「ぽやーんとした感じがちょっと似てたかしらねぇ。」
樒「え? 似てた? わたしに? わたしあんなにかわいくないよ」
桔梗「あら、樒ちゃんはかわいいわよ。でも、どちらかというと・・・」
葵「光、お前いつから乗り換えたんだー? 聖、苦手じゃなかったのか?」
光「(きいてない。桔梗ばかり見上げている)き、き、き、き、・・・」
葵「あん? 無視かよ、こら」
光「き、き、き、・・・・・・桔梗っ!」
桔梗「(にっこり)何かしら、光君。あ、借りていたゲームだけど、もう少しまってね。あと少しでクリアなのよ」
光「そ、そ、そ、そうじゃなくて・・・」
葵「(樒にひそっと)別人だよな、さっきと」
樒「バレンタインだもん。やっぱ本命さんからもらいたいんじゃないのかな」
葵「なんだよ。樒は誰にあげたんだ?」
樒「あ、あげてなんかっ・・・お昼にいっしょにたべたじゃん」
葵「ああ、あの塩味の黒い塊か・・・」
樒「う・・・(ひざかかえてうずくまる)どうせ私なんか、私なんか、チョコレートと貸して肩入れて冷やすのすらうまくできないんだ・・・」
桔梗「あら、夏城君はおいしかったって言ってたわよ。塩味ビターなココアの塊だって」
樒「えっ!? えっ?! わ、わたしあげてないよ!!!」
桔梗「私があげたのよ。お昼のとき、ひとつ余分にもらったでしょう?」
樒「え? あ、で、でもそんな・・・」
桔梗「大丈夫よ。ちゃんと樒ちゃんからだって伝えておいたわ。そしたら先に食べた私のよりおいしい、ですって。やーねぇ、もう。さっさと付き合っちゃいなさいな。あれをおいしいって言えるなんて、もう愛よ、愛」
光「き、桔梗。僕にも、その、桔梗のあ、愛情を・・・(ぜぇぜぇ)」
桔梗「そうそう、光君、光君に渡そうと思ってたものがあったのよ。いけない。忘れるところだったわ」
光「(きたーーーーーっ)な、なになになに?」
桔梗「(勢い込んだ光の目の前に生徒手帳を差し出す)この間、うちに忘れて行ったでしょう? お隣さんだからいつでも返せると思ってたら、ついつい渡しそびれちゃって。困らなかった?」
光「・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。すっかりわすれてたから。ありがとう、桔梗・・・・・・・・・・・・(じっとみあげる)」
桔梗「それじゃあ、私、これから樒ちゃんと葵ちゃんと一緒にチョコレートパフェ食べに行くの。今日は洋子さん早く帰ってくるって言ってたものね。ちゃんと親孝行するのよ」
光「・・・うん・・・そうするよ・・・」
桔梗「さ、それじゃいきましょ。チョコパが私たちを待っているわ!!!」
葵「お、おう・・・(同情的な視線を光に投げかけつつ桔梗を追う)」
樒「光君、それじゃ、また今度ね」
光「うん、ばいばーい・・・・・・・・・・・・・・・・・」
光、寂しげにぱらぱらとせいと手帳をめくる。
と。ばさり、と一枚白いものがページからはがれる。
光「・・・あ、あれ・・・これ・・・(つまみ上げると指に溶けたホワイトチョコが。まぐっと口にほうばる)・・・おいしぃ・・・・・・・・・・・(じーーーん)」
葵「桔梗、夏城にはチョコやったのに、ガキにはなしか?」
桔梗「やぁね。ちゃんとあげたわよ。気づかなかったら縁がなかったってことよね」
樒「え? いつあげたの? さっきの様子じゃ、光君すごくチョコ欲しそうだったけど」
桔梗「さっきよ。落としていった生徒手帳にはさんでみたの。チョコレートって、すごく薄くできるでしょ? 光君の忘れてった生徒手帳見てたら、極限まで薄くして紙に間違わせたいなって衝動に駆られちゃって」
葵&樒「・・・・・・・・・・・・わかんねぇよ/わからないよ、それ・・・・・・」
桔梗「いいのよ。私の中で渡したことになってれば。ちなみに樒ちゃん。夏城君に上げたのはきなこチロルだから安心してね」
樒「きなこチロル? ・・・市販品のほうが絶対おいしかったよね・・・。ごめん、夏城君・・・」
桔梗「なにいってるの。樒ちゃんは魔法の調味料が使えるんだから、市販なんかよりよっぽどおいしかったわよ」
葵「塩味なんて、チョコの定番だよな。スイカに塩かけて食うくらいだし」
樒「・・・・・・・・・・il|li_| ̄|○il|li」
桔梗「あらあら、だめよ。いくらなんでも顔文字は。所詮バレンタインはバレンタインさんの命日だったか誕生日でしょう? 知らない人のお祝いをする余裕は私たちにはないものだわ」
葵「・・・お前のそのひねくれぶり、ほんとに何とかしたほうがいいと思うぞ」