神社の裏はすぐ崖になっていて、夏も冬も絶えず飛沫が上がるほど波が打ちつけていた。祖母は口を酸っぱくして裏の崖に行ってはいけないと言っていたけど、僕と涼湖は二人手を繋いで歩ける細い道を知っていた。
その日の午後も、僕と涼湖は波しぶきを浴びながら春の昼下がりを過ごしていた。
いたずらな春風が吹いたのはそんなときだった。
「あ、帽子が…」
「どないした、涼湖」
「待って、待って、私の帽子……」
そうでなくても大人と子供がようやく二人通れる程度の狭い道だ。涼湖が僕の手をすり抜けて海の方を向いただけで、涼湖の足元からは崖だった石ころが転がり落ちていく。
「あかん、涼湖! 戻れ!」
涼湖が風に飛ばされた帽子に手を伸ばそうとした瞬間、その高波はやって来た。
崖から落ちるまでもなかった。
海は迎えに来たのだ。
おそらくは、涼湖を。
「涼湖っ!」
僕は幼い妹の体を抱き締めて、高波の襲来に備えた。
海は軽々と僕らを飲み込んだ。
呑み込み、渦の中に巻き込み、上も下もわからなくして、僕らをばらばらに引き離した。
「お兄ちゃんっ!」
水のなかだというのに、悲壮に歪んだ涼湖の幼い顔と悲鳴が僕の最期の記憶となった。
涼湖。
君は覚えているだろうか。
僕のことを。
幼すぎて忘れてしまったかもしれないね。
あるいは、恐ろしい記憶など波の合間に置いてきてしまったかもしれないね。
無理に思い出さなくていい。
僕はただ、君に海の中で見つけたこの帽子を返してあげたいだけだ。
それ以上、望むべくもない。
「季李沙様、お時間です」
「いま、行くわ」
ただ、もし君が望まずにいまの道を歩んでいるというのなら、僕は手をこまねいているわけにはいかない。
望んでいたとしても、その道が苦痛に満ち溢れているのなら、僕はその苦痛を取り除いてやりたい。
苦労しただろう? いままで、さんざん。
もう君が辛苦を味わう必要なんかない。
君はまた僕の妹の皇涼湖に戻ればいい。
記憶が邪魔だというのなら、すべてを消してあげよう。
僕は君を人魚姫の泡になんかさせない。
君は足を手に入れ、声を取り戻し、本当に愛する人と結ばれるべきなんだ。
それはもう、僕ではなくなっているかもしれない。
それでもいい。
君の魂が安らげるときが来るのなら。君の未来がこの先も繋がっていくというのなら
光「僕と綺瑪って運命だと思わない?」
桔梗「どうして?」
光「綺瑪の綺と僕の麗で綺麗って単語になるじゃないか」
桔梗「そうね。これからもクリーンな関係でいましょうね」
星が高校の数学教師になったら女子生徒からモテて、バレンタインとか大変なことになりそう。
あえて男子校とかも考えたけど、共学の方が似合うよね。
当初は維斗の会社で商社マンという形だったけど、星はぜっったい安定を求めて公務員系になりそう。
それも一般事務で色々ばりばりやるよりは、教師なかんじ。
生徒たちの青春を意外と優しい目で見つめてたりするのかもしれない。
サッカー部の部活顧問とか。
幼稚園には樒がいるしね。
25くらいで結婚して、女生徒たちをがっかりさせるんだろうなぁ(笑)