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聖封神儀伝専用 王様の耳はロバの耳

「聖封神儀伝」のネタバレを含む妄想小ネタ雑記。

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星×樒(甘未来)

夏城君……あ、今は旦那様になったので名字で呼ぶのはおかしいですよね。
星……くん(真っ赤)が最も素になる、というか子供に返ったように感情を露にするのがサッカーの試合です。特に四年に一度のW杯の盛り上がりは目を見張るほどです。
時間が合えば三井くんと佳杜菜さんがいらっしゃって一緒に見ることもありますが、そうでない仕事帰りの夜中などはビールと枝豆に見向きもしないで歓声や悲鳴をあげながら飛び上がったり頭を抱えたりしています。
三井くんたちが来たときはもう少し大人しく控えめにガッツをしたり首を振ったりしているので、わたしだけが見られるこの夏城君……あ、星くん……の姿はすごく特別でとても愛しいものなのです。
何より、あまりに試合に熱中しているので、わたしが側でにこにこ見つめていても気づきません。
ハーフタイムになると驚くほど饒舌になります。
それがまたかわいくて、わたしはうんうんと聞いています。
星くんと一緒に過ごすようになってからわたしのサッカーの知識は増えましたが、これらが全て星君の蘊蓄の賜物だと思うと、共有してきた時間の証とも思えて与えられた知識すら愛しく思うのです。
もちろん見つめてばかりじゃなく、ちゃんとテレビも見て応援しています。
「うぉぉぉぉっし! 今のプレーは……ん?」
あ、見つめてたのに気づかれちゃったみたいです。
「ううん? 今のプレーは?」
「……」
小首を傾げて続きを促してみたのですが、星くんは一瞬じっと真顔で探るようにわたしを見つめたあと、ひょいと手を伸ばしておでこに口づけを落としました。
「あとでな」
低く耳元に囁かれた声がくすぐったくて顔が熱くなるのがわかります。
でも星くんはお構いなしにまたテレビにかじりつきはじめました。
ぷっとわたしは小さく吹き出してしまいます。
大人の顔で囁いたかと思えば、あっという間に子供の顔になってサッカーの世界に入っていく。
そんな彼の姿をこんなに間近で見られるのはわたしだけでしょう。
ああ、近い未来、もう一人、そんな星くんの姿を見ることになるでしょう。
この試合に勝ったら、そのことを教えてあげようと思います。
今度はどんな顔をするのでしょう。
少年のように飛び上がって喜ぶのか、大人っぽく喜びを噛みしめるのか、それともまだわたしも見たことのない父親の顔を見せてくれるのか。
楽しみです。





同日、ちょっと前。
三井家。
徹(小児科医)「なぁ、今日樒ちゃん来てなかったか?」
佳杜菜(産婦人科医)「いらっしゃいましたよ」
徹「えっ、それってやっぱり……!!」(おもむろに携帯に手を伸ばす)
佳杜菜「無粋なことはおやめくださいませ。きっと、まだお話していませんわ」
徹「え、なんで?」
佳杜菜「今日の試合に勝ったら報告するとおっしゃっていましたから」
徹「今日……! ああ、サッカーの試合に集中させてあげるため?」
佳杜菜「それもあるのでしょうけれど、ゲン担ぎなのでは?」
徹「なるほど、勝った日に知れた方が縁起がいいもんな。でも、待てよ、もし負けたら?」
佳杜菜「勝つまでお預け……」
徹「んなわけないよな? 言うよな? うっかり俺様が口滑らしたら、父親より俺様の方が先に知っちまったこと、あいつが許すわけないもんな。うわぁ、勝ってくれ、勝ってくれよぉぉぉ~っ」
佳杜菜「勝っても負けてもあなた、おっしゃってしまいそうですわね」
徹「いや、それは、守秘義務にかけて! もし星から報告あったら、初めて聞いたようにそれはもう大げさに驚いてみせるよ!」
佳杜菜「それはむしろ勘付かれてしまうのでは? あなた隠し事下手ですもの」
徹「うっ、いや、でもがんばる。星が父親だぞ? 記念すべき初めての子だぞ? 初めては重要だ。大切だ。一回しかないからな」
佳杜菜「そうですわね。わたくしたちにとっても智(あきら)は特別な子ですものね」(ベビーサークルの中で眠る女の子をちらりと見つめる)
徹「だな。で、だな……その、二人目も特別な存在になると思うんだが……」
佳杜菜「ですわね。きっと、特別な存在になりますわ」(お腹をさする)
徹「えっ、まさか、佳杜菜ちゃん、二人目……!?」
佳杜菜「うふふ。わたくしも試合に勝ってからと思っていたのですけれど、一足早くお伝えさせていただきますわ」
徹「うぉぉぉぉっ、やったぁぁぁぁっ、ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい!」
佳杜菜「徹様、声が大きすぎますわ」
佳杜菜父「(階段の下から)どうした? 何かあったのか、佳杜菜!」(←二世帯住宅兼小児科と産婦人科の併用住宅)
佳杜菜「ほら」
徹「あ……っ(頭を掻く)お父さんとお母さんにはもう?」
佳杜菜「まだに決まっていますでしょう。こういうことは旦那様にお話をしてからと決まっております」
徹「ふぉぉっ。(ぎゅっと佳杜菜を抱きしめる)ありがとう、佳杜菜ちゃん。(腕を緩めて)よし、お父さんたちに報告に行くか!」
佳杜菜「はい!」
徹「(智をベビーサークルから抱き上げ、佳杜菜を振り返る)なぁ、佳杜菜ちゃん。俺様達さ、まさかこんな風に未来が来るなんて思わなかったよな」
佳杜菜「(ふっと微苦笑して)そうですわね」
徹「星も樒ちゃんもそうだろうな。きっと……俺様達とはまた違った想い、噛みしめるんだろうな」
佳杜菜「そう、ですわね」
徹「俺様達は、その、……俺様は、あの時生まれた子供たちを取り戻してる感じなんだ。だから、ああ、ようやく還ってきてくれたって、お帰りって、俺様は思うんだ」
(佳杜菜、そっと徹の腕を胸に抱きしめる)
徹「あいつらはさ、正真正銘、初めての、子、だろ? もっと前は一人いたみたいだけど、それだって、さ、ちょっと複雑だったみたいだし。あいつらの時間、ようやく動き出したんだな。これまで見たことも経験したこともなかった時間がーー<予言書>にもなかった時間がちゃんと訪れてるんだな」(男泣き)
佳杜菜「(ハンカチで徹の目元を拭って)お二人には感謝しませんとね」
徹「ああ。それからもう一人……(窓の向こうの空を見上げる)」
佳杜菜「いつか、きっとまたお会いになれますわ。この毎日はあの方が見守ってくださっているおかげですもの」
徹「そうだな。きっとあいつにも伝わってるよな」
佳杜菜「ええ、きっと」
徹「よし、行こうか。あ、その前に、智~、お前、お姉ちゃんになるんだぞ~」
佳杜菜「ふふふ、そうでしたわ。智、あなたお姉ちゃんになるんですのよ~」
智「(起きて、二人に小さな手を伸ばす)あ~ぶぅ~っ」
(笑いあう二人。いや、三人)
徹「行こうか」
佳杜菜「はい、徹様」
(二人の階段を降りるスリッパの音が嬉しそうに階段室にこだまする)


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和泉有穂
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自己紹介:
ユジラスカの館で「聖封神儀伝」を連載しています。
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