桔梗は小学校2年の時に京都から東京に転校してきているが、このとき同じクラスでクラスのボスだったのが葵。
男子と野球やサッカーやら一緒になってはしゃいでいる葵は当時から世話好きで、お淑やか系転校生にも親身になって生活に早くなれるように協力してあげていた。
が、桔梗はどんなに親しく話しかけても自分を見て話してくれているような気がしない。
他のクラスメイトよりも親しい表情で返してくれるが、自分の背後にでも立ってる人物に話しかけているような気がしていたのだ。
「誰に話しかけてんだよ!?」
と切れた葵に、桔梗はしらばっくれて逃げようとするが、葵はタックルをかけ、しばし乱闘モードに。
「ふざけんなよ? おれは科野葵だ。他の誰でもない。お前が藤坂桔梗以外の誰でもないように、おれは科野葵ただ一人なんだよ。おれ以外に用事があんなら、もうおれには話しかけるな。直接そいつと話せ。話し方なんか知らないけどな」
つかみ合いの殴り合いを繰り返した末、身体中に青あざをつくった桔梗はぱちりと目を覚ます。
「私は、藤坂桔梗以外の誰でもない・・・? 私は、藤坂桔梗・・・くすくす、あっはははははは」
「なんだよ」
「いいえ。そのとおりだと思って。そうよ。私は藤坂桔梗だもの。他の誰でもない、藤坂桔梗。ねぇ、科野さん。名前って、便利ね」
葵は実際桔梗のその言葉にかなりむっと来たが、はじめて桔梗が自分を見て話しかけてくれた気がしたので、気にしないことにした。
小学生女子でも殴り合って友情を芽生えさせたという・・・。
ちなみに岩城の初等部出身者の間では、あの藤坂桔梗が科野葵と殴り合いのけんかをしたことがあるということは勿論タブー。
葵だけはたまに思い出話として笑い飛ばしながら話すことがあるが、周囲は睨みを利かせる桔梗に青くなっていて、何の反応も返せないでいる。
多分、樒はこの話はまだ知らない。
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