・メディーナは、きっとヨジャのことを信頼してた。何なら大好きなお兄ちゃんだった。その人が私の両親を殺した。大好きな両親を殺して、私を女王にした。
・メディーナのもう一人のお兄ちゃんがラシード。お兄ちゃんというか、当時はお姉ちゃんだった。姉6人が手塩にかけて女装させ、女の仕草を叩きこんだ着せ替え人形のお姉ちゃんだった。
メディですら、ラシードが武術大会で優勝して西方将軍になり、空席だった周方皇の座に座った時、即位式に招かれて、はじめて男であることを知った。
【即位式後】
「ラシーヌの嘘つき! いつまでも妾のお姉ちゃんでいてくれると申したであろう!」
「ごめん。いつまでも逃げてないで、そろそろ即位しろって言われちゃって」
「逃げていたって……着せ替え人形として遊んでいたのはあの姉上たちではないか!」
「六番目のアマンダの結婚が決まったんだ。だから、着せ替え人形はもういらないって。上の姉たちもそれぞれ女の子がいるし、もう俺のことはいらないって。俺は――君のお姉さんのままでいたかったんだけどね」(淑やかに「私」と言っていたラシーヌ(男装)の顔で「俺」と言っている時点で衝撃を受けているメディ)
「はっ、それでは、まさか新しく即位する周方皇が我が夫となる人だと言われていたが、まさか……この、ロリコン!!」
「俺のこと責めないでよ。そんなこと言いだしたのは、お宅の執事だよ? 責めるならヨジャを責めなよ」
「ヨジャめ!!! 何から何までどうしてこんな勝手なこと!!!!」
「それに」
「? それに?」
「メディーナ、風環の国の女王。君のことは、俺が生涯かけて守り通すよ(たとえ、君の心があの執事にあろうと、ね)」(メディの手を握り)
「!!!」(真っ赤になって仰け反る)
「可愛い、メディーナ」(引き寄せ、抱きしめる)
「はっ、放せ! ラシーヌのくせに!! 放せ!!」
「ラシード」
「!」
「ラシード・カールーン。覚えておいて、君の夫になる男の名前だ」(額にキス)
「!!!」
「この先、何が起こっても俺のさっきの言葉、信じていて。君を傷つけるようなことは決してしないから」(にっこり笑って頭を撫でる)
何が、信じていて、だ。
どこへ行ったんだ、ラシード。
私を置いて、どこへ姿をくらました?
もう一つの約束を忘れたのか?
両親が殺された時、抱きしめて囁いてくれただろう?
『俺が君の側にいるよ。誰がいなくなっても、俺だけはいなくならない。けして、君のことを一人にしないと誓うよ』
それとも、ラシーヌの言葉はもう反故なのか?
出て来い、ラシード。
出てきて、もう一度抱きしめてくれ。
ヨジャが、いなくなってしまったんだ。
誰も彼も、私の側からいなくなってしまう。
だからラシード、早く、戻ってこい。
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