シャルゼスが当たり前のようにサヨリを呼び捨てにしている。
いったいなぜなのか・・・・・・
探ってみたところ、以下の事実が判明しました。
これは鉱もサヨリも知らない話。
シャルゼスはアイラスの幼馴染。
アイラス皇女の遊び相手として羅流伽宰相の次男だったシャルゼスが皇宮に上がっていた。
アイラスがよくなついていた兄貴分。
アイラスの初恋相手でもある。
シャルゼスも憎からず思っていたが、精霊王としての責務があるため、アイラスの想いは見て見ぬふりをしてきた。
アイラスが愛優妃の侍女になって天宮に行った時、一緒に羅流伽を出た。
そのあとは天宮でアイラスがうまくやっているのを見守りながら、やんちゃな鉱の後々の伸びしろを作るために鉱土の国中の街酒場や鉱山など、必要な情報を集め人脈を築いてきた。
鉱土の国が一通り済むと今度は周方や風環の国になるところまで足を延ばし、ネットワークを広げた。
そうこうしているうちに、アイラスが周方王に見初められ(キースに殺されかけたときに、アイラスと結婚して周方の礎を築くよう諭されたから、が真実)、結婚の話が出ているという話を聞き、どうしても最後に一目会っておきたくて(未来のことを聞かせてアイラスを嫁がせるためというのは名目)天宮のアイラスに会いに行く。
愛優妃の薔薇園で月夜に二人久々に逢う。
アイラスは想いを告げ、シャルゼスに一緒になってほしいと懇願するが、シャルゼスは自分が土の精霊王であり、鉱土法王を守らなければならないこと、アイラスが後々周方王との間に設けた娘が鉱の妻となり、神界を支える息子を生むことをアイラスに告げる。
アイラスはそれを聞いて、シャルゼスが自分よりも鉱土法王を選んでいるのだと理解。
嫉妬をねじ伏せ、尋ねる。
「あなたがわたくしの幼馴染に生まれてきたのは偶然ですか? それとも……わたくしに周方王の後妻に入る決意をさせるためですか?」
「どっちだろうな。それはわからない。だが、今俺がここにいるのは他でもない。お前に周方王に嫁ぐ決心をさせるためだ」
アイラスは「残酷な」とは口にしなかった。
ただ唇をかみしめて泣くのをこらえていた。
「お前の息子と娘は守れる限り、俺が守るよ」
「守れる限り……というのは、やはりその子たちも運命に翻弄されるのですね」
「俺たちはすべての礎でしかない。だが、俺たちがいなければ未来は繋がらない。アイラス、未来のことは俺たち二人だけの秘密だ。二人だけで周方王も知らない二人だけの夢を見よう?」
「二人だけの、夢……ずるいですわ。そんな口づけよりも甘美な……」
(シャルゼス、アイラスを抱きしめ、一度だけ口づける)
「お前は一生俺のものだ」
「ずるい方。あなたは鉱様をお選びになるのに、わたくしのことはそうやって言葉で縛りつけておくのですね」
「そうだ。だから……」
「わたくしたちにも未来はありますの? わたくしたちが礎となって築いた先の未来で、またあなたと出会えますか? その時は……」
「その時こそ、一緒になろう」
こうして、アイラスは周方王に嫁ぎ、シャルゼスの予言通り一男一女をもうけ、息子ヴェルドは西方将軍に、娘サヨリは鉱土法王の妻となり、さらに一女一男をもうけた。
孫の顔も見たアイラスは、周方王の後宮深くで眠りにつく。
臨終の際、シャルゼスはいつぞやの若い姿のまま周方王の後宮に入り込み、すっかりおばあちゃんになってしまったアイラスの手を握り、安らかに息を引き取る姿を看取ったという。
同じく高齢になっていた周方王はしかしまだ存命であり、シャルゼスが現れるまではアイラスを見守っていたが、シャルゼスが現れた後はアイラスの室を去り、崩御の知らせが入るまで自室から出なかったとのことである。
周方王がアイラスとシャルゼスの仲を知っていたかどうかは今となっては誰も知らない。
徹は、あとから思い返してみて、サヨリの実母が亡くなったという知らせが入る数日前からシャルゼスの姿が見えなくなり、知らせがあった後、上から下まで真っ黒い衣装でどこか上の空で登庁してきた日があったことを思い出し、そういうことだったのかと納得したという。
ちなみに、誠の中学時代からの彼女の那智がアイラスなのかはまだ不明。
葵篇の幕間にて毒で痺れてしまった龍。
仕方がないので、統仲王か育のどちらかに背負っていってもらおうと思ったのですが・・・
和「龍ちゃん、龍ちゃん、お父さんとお兄ちゃんと、どっちの背の上がいい?」
龍「どちらも嫌だ」
和「遠慮しなくていいんだよ。まだ綺瑪のことも関係ないし、聖も生まれてないし。小さい時のことじゃん」
龍「小さくともこの身体があの二人に預けられるかと思うと、虫唾が走る」
和「何言ってんのー。小さい頃は仲良し家族だったくせにー」
龍「私は誰の世話にもなりたくないんだ」
和「そんな子どもいないよー。大体、小さい時は泣き虫の甘えっこのお母さんべったりだったじゃないの。何をいまさら」
龍「それなら愛優妃の……」
和「ああ、統仲王の背の上がいいとね」
龍「やめろ。あの男だけは絶対に嫌だ」
和「あれでも龍が小さい時はかわいがっていたんだよー?」
龍「断る! ……兄上でいい(小声)」
和「ん? 聞こえない」
龍「兄上にしてくれ! あの男とだけは、いくら幼いからとはいえ、何も知らないとはいえ、何されるか分かったものではない! 絶対に絡みたくないっ」(スタスタスタスタ)
和「あーあ、行っちゃったよ。お父さん、随分嫌われましたね」
統「相っ変わらず愛い奴よのぅ。いいから私にしておいてくれ。どうせだから頬ずりもサービスしてやる。無精ひげを残しておかなくてはな。はっはっはっはっ」
あまりに統仲王がご機嫌なので、育さんに頼むことにしました。
統「ちっ」
龍「ほっ」
育(苦笑)
それが麗ちゃんのためになるというのなら、僕は喜んでなんだってするよ。
どこにだって行くよ。
カルーラとサザは、主人のもとから離れて放蕩しているかわりに、各地の情報収集をしてくる役目を持っていた。
ずっと君の夢をみていた。
女神の腹にいる中で、ずっと君の面影ばかり追いかけていた。
記憶に刷り込むように。
魂に捩じ込むように。
記憶を消されても、必ず思い出せるように、刻み付けておこうと思った。
君と過ごしたのはたった二月足らず。
でも、一人で暮らしてきた俺には、君の笑顔はまばゆいばかりに輝いていて、何度目をすがめたことかわからない。
それこそ君は南の太陽よりも白く輝いていて、湖に咲く紅い睡蓮よりも情熱的だった。
どうして追いかけられずにいられよう。
どうして永遠に共にありたいと願わずにいられよう。
どうして、求めずにいられよう。
道を示されたとき、峻巡したのはたしかだった。
君はすぐに帰ってくると書き残してくれたのに、俺がいなければどんな顔をするだろう。
暮らしの跡を残して隠れてしまっては、どれだけ心配するだろう。
しかし、それ以上に、俺の亡骸を見た君は、どれだけ絶望するだろう。
自惚れていたかった。
君が戻るというのなら、それ以上のものを俺は返したいと思った。
俺は、君を待つことではなく、待たせることを選んだ。
女神の言う通り、待っていてくれることに賭けようと思ったんだ。
名前も変わる。
身体も変わる。
記憶すら一時的に失う。
まして、はなから血の繋がった仲になる。
これは賭けだ。
君が血のしがらみを乗り越えて、俺との永遠の時間を選んでくれるかどうかの、これは賭けなんだ。
痛い。
身体が押し潰される。
魂を抜かれる前に心臓を掴まれたときよりも、なお痛い。
忘れてしまいそうだ。
何もかも、痛みごと。
忘れてしまいそうだ。
君のことさえ。
自己を脱がせられる恐怖の痛みに貫かれながら、それでも行くよ。
君の元に。