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聖封神儀伝専用 王様の耳はロバの耳

「聖封神儀伝」のネタバレを含む妄想小ネタ雑記。

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「どうした、爽やか路線はやめたのか?」
 育兄さんは口元に皮肉げな笑みを浮かべ、煙草の先に火を点しながら訊ねた。
 俺は、今一度俯いて自分の身に着けているものに目を走らせる。
「別に、意識して白やら黄色ばかり着ていたわけじゃないんですよ」
 身につけているものは全て黒。腕や耳につけられた飾り輪だけが不相応に黄金色に輝いている。
「好きだったわけでもない、か?」
 何を問いたいのか、俺には分かるような気がした。
 育兄さんは全てを知っているのだ。
 俺が、本当は何者なのかも。
「綺麗なものに憧れていたんです。黄色は統仲王から風に与えられた色でしたけど、黄色も白も汚れればすぐにそれが分かってしまう純粋さがある。それを、どれだけ汚さずに着こなせるかなーって」
「己の過去を包み隠すためではなく?」
「隠すなら好んで黒を選びましたよ。内から滲み出てしまう危険もありましたから」
 育兄さんは星しかない空を見上げてゆっくりと息を吐き出した。
 白い煙が星空を汚していく。
「身体に悪いですよ」
 笑いながら注意してみる。
 指に挟まれた煙草からはまだ紅い熱を持った灰が落ちる。しかし、それは足元にたどり着く間もなく色を失って、やがて闇に溶けていった。
 思い出すことは、たくさんある。
 たくさんありすぎて、何も思い出せない。
 当たり前だ。俺の魂はそもそも人間用のもの。神の子たちのように長い年月を記憶できるようにはできていない。ただ、一つだけ昨日のことのように思い出せることがある。何を忘れてしまっても、この記憶だけは失いたくない。
「いずれ滅ぶ身体だ」
 もう一度煙草をくわえ、煙を吐き出して、ようやく育兄さんは呟いた。
「私が戻ることは二度とない」
 二言目は、これほどまでに世界が静かでなければ聞き取ることなど出来なかっただろう。
 自嘲に満ちた予言。
 そう。予言に聞こえたんだ、俺には。
「生きろといわれました。炎に、生きて待っててほしいと言われました」
「自ら死を選んでおきながら、我儘な妹だ」
「……初めて言われたわがままです」
 炎は麗兄さんや鉱兄さんにはわがままで高飛車な姉と思われていたようだけど、俺には何一つ何かしてほしいと言うことはなかった。姉だから甘えたくなかったのか、甘える関係にしたくなかったのか、俺があまりに頼りなさ過ぎて何かわがままを言う気にならなかったのか。
 炎が何を考えているのか、ついぞ俺には分からなかった。分かろうとすればするほど、分からなくなる。むしろ、炎は俺にだけは知られたくない何かを抱えて死んでいったようにも思えるのだ。
 分かり合えなくなっていたのに、どうして俺たちは一緒にいることを選び続けていたのだろう。
 離れることを選んで尚、なぜ炎は俺にあんなことを言ったのだろう。
「黒は着心地がいいか?」
 物思いにふける俺を呼び戻すかのように、育兄さんはいつもよりも大きめの声で訊ねた。
 俺は空を見上げる。
「さぁ、わかりません」
「当ててやろうか? 炎に隠しておきたかったことがあったんだろう? 炎が死んだから、隠す必要もなくなった」
「隠すために黄色や白着てたわけじゃないって言ったじゃないですか」
「隠したかったのは、お前自身だ。黒は、あまりにもお前自身に近かった。だから自分をさらけ出すような気がして使えなかった」
「……そんな。人を罪の塊のように……」
 笑った。顔を伏せて、そのまま笑いながら呟いた。
 嫌な兄だ。何でもお見通しの人ほど、側にいたくない人はない。
「風」
 それでも、俺は好きだった。唯一、この人だけは俺という人間を理解している。その上で、俺を風と呼ぶ。
「風の祝福を受けた者よ」
 知っている。やはり、この人は全てを知っているのだ。おそらく、風と呼ばれる前にすでにカインと契約していたことも。そう、父母の復讐をしたいがために、最上級の精霊の祝福を無理やり力で手に入れたことも。
「何でしょう?」
「煙草、いるか?」
 差し出された白い一本に、俺の目は釘付けになる。
「私も吸っているただの煙草だよ。爆発するわけでも、何かの手紙が仕込まれているわけでもない」
「……いただきます」
 受け取って指の間に挟み、口に咥える。炎が煙草の先端を焦がす。
「身体に悪いといっておきながらその吸い方、常習者じゃないか。炎の精霊もお久しぶりと言っているぞ」
 炎は煙草に火がともると慎ましやかに消えていた。
 お久しぶり、か。
 鍛冶を生業としていた頃、彼女にはカインリッヒ並みに世話になっていた。いや、それ以上か。それこそ、金物を鍛えるところから煙草に火を点すところまで。
 ずっとついてきていたんだろうか。この身体になってからも。
「常習者だなんて、勧めておきながら人聞きの悪い」
「共犯者がほしかったんだよ」
 胸の中をほろ苦い風味が円を描いて駆け抜けて、大気へと吸い込まれていく。
「共犯者」
 煙草の? それとも……
「兄さん、今度はカラムのライトにしてください。これ、重すぎます」
 うっすらとたどり着いた結論には触れずに、俺は自分の好物だった銘柄をあげた。
「カラム? そこはもう数億年前に生産をやめていたはずだがね」
「え?」
 しまった。
 口元は押さえなかったものの、間抜けな顔で俺は育兄さんを振り返っていた。
「嘘だよ。じゃあ、この戦いが終ったら用意しておくから、そのときはまた一緒に秘密を抱え込んでくれるかい?」
「育兄さんはもう秘密でもなんでもないでしょ。それに、死ぬことのない身体なら、身体に悪いだのなんだのって話は何の意味もありませんから」
「イメージってものがあるだろう。お前がずっと重視してきたものだよ」
 半ばまで吸いかけた煙草を足元に落とし、足で揉み消す。残った部分に何の未練もなく。
「他愛ない話というのはよいものだな。お休み、風」
 颯爽と鮮やかな深緑の裾を翻して育兄さんは俺に背を向けた。
「目覚める眠りを大切にするといい」
 訳など、分かりたくない言葉を残して。
 俺は、黒い衣装を身につけている。
 鉱兄さんのように、失った大切な人の喪に服そうと黒を着ているわけじゃない。
 炎が死んで、初めて黒を着たいと思った。黒い布に手が伸びていた。
 キースのときのように。
 中を見透かされそうな黄色や白よりも、この色は着ていてとても気が楽だ。
 風でなくなったわけではないのに、もう何も隠さなくてもいいという解放感があった。
「俺は、何を隠してたんだろう」
 疑問を掻き消すように風が吹く。
『あの曲を吹いて』
 煙草を手放し、代わりに笛を唇に当てる。
 俺は、やがて思考していたことも忘れて笛の音色に没頭していった。
 吹き終わっても、もう誰も拍手はしてくれない。それでも、君が聞きたいというのなら吹いてあげよう。
 君の好きだった光の曲を。
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いまさらだけど

鉱の名前、光と音かぶってるじゃないですか。

どうして「陸」とかにしなかったんだろう。てか、思いつかなかったんだろう、その漢字。
「陸」って名前だと、もっと落ち着いてどっしりした人生歩んでそうですけど。

名前を変えると性格もイメージも変わってしまうので、今更そんなことは出来ない、出来ない。。。

はじめての約束

 幼い頃、愛優妃が言ったことがある。
「まだ分からないと思うけど、分かってからじゃ遅いから話しておきましょうね」
 なんとなく、聞きたくないと、及び腰になったのを覚えている。
「もしこの先妹が出来ても、交わったりしては駄目よ。もちろん、海とも炎とも」
 愛優妃はいつもの他愛ないことを話すような顔つきで、しかし、南海の水を集めたような青い瞳は真剣に俺を見つめながら、まだ何も知らなかった俺にそう言った。
 交わる、という言葉の意味を問い返そうとして、幼かった俺は自然に赤くなって口ごもった。
 あまり軽々しく口にしていい言葉ではないと直感的に悟ったからだ。
「・・・うん」
「約束よ?」
 にっこりと愛優妃は微笑む。
 我が母親ながら幼い俺はその愛優妃に憧憬すら抱いていて、まっすぐに伸ばした人差し指があてがわれたふくよかな唇をまっすぐ見ることも出来ずに無言で頷いた。
 きっと、この気持ちの行きつく先がその禁忌とも思える言葉が示すことなのだろう。
「だけど母上」
「なぁに、龍」
「僕たちは永遠に生き続けるのでしょう?」
「・・・そうよ」
「それじゃあ、僕たちは一体誰と一生を共に歩めばいいの?」
 愛優妃は珍しく目を瞠っていた。
「ごめんなさい。なんでもな・・・」
「共に歩くのではないのよ」
 いつもよりちょっと高い声で愛優妃は俺の言葉をこれまた珍しいことに遮っていた。
「連れて歩けばいいの」
 それは、愛優妃の口から出たものであるとは俄かには信じがたい言葉だった。
 共に歩むのではなく、連れて歩く。
 その言葉は、主従を連想させる。
「影ならば、けしてあなたたちを裏切らないから」
 そのあと、俺はなんと答えて愛優妃の元を辞したのか覚えていない。
 ただ、それからずっと後になってわかったことがある。
 影でも俺たちを裏切る。
 サザ。お前とははじめから信頼しあえる立場になかった。
 綺瑪。貴女とは、共に歩めると信じていたんだ。永遠に。
 そして、なぜあの時愛優妃があんなに直接的な言葉で俺の心を前もって戒めたのかも。
「龍兄、今度聖刻の国で音楽祭をやるのよ。来て・・・くれるわよ、ね?」
 俺がずっと面倒を見てきた末妹。まだ幼かったときは、連れて歩いているようなものだった。
 だけど今は――
「すまないが、羅流伽の情勢が思わしくないんだ。出席は出来ない」
 青と黒の瞳が期待を裏切られ、しかし予想通りであったと軽く伏せられる。
「でも麗兄さまは来てくれるって・・・!」
「それはお前の体調を考慮してのことだろう? その分、私は麗の分まで北を守らねばならないんだ」
 一体、何を守るために?
「でも、一日くらい・・・!!」
「くどい」
 背を向けても、この背の後ろで聖が呆然と立ちすくんでいるのが分かった。泣いてはいない。あいつは、いつからか全く泣かなくなった。どんなに俺が避け続けても、ひどい言葉をぶつけても、聖は泣かない。
 ただ、それは涙を見せまいとこらえているだけなのだということくらい、俺にも分かっていた。
 俺の背が駄目なことも、一番よく知っている。
 初めて聖を傷つけたのは、思い返せばおそらく、綺瑪の墓の前で祈っていたときだろう。必死にしがみついていたあの体温は、幼児のものとは思えないほど冷たかった。
 精神的に聖は俺に依存しているのだ。だから、共に歩く対象ではない。連れて歩く妹でしかない。
「愛優妃、約束は守っていますよ」
 だけど、何のために愛優妃はあんなことを言ったのだろう。
 博愛と平等を謳う愛優妃が、他人を貶めるようなことをわざわざ幼い俺に言い含めた理由。あれは、今思えば何かに怯えているようでもあった。だから、もし俺の推測が正しいなら、それは倫理的な理由などではなく、もっと愛優妃と統仲王、二人の沽券にかかわることでしかないはずだ。
 もしそうだったとしたら俺は――
「そう。約束は守っています。今は・・・ね」
 ようやく見つけたのだ。
 共に歩める存在を。
 聖は俺に依存していると言ったが、俺も相当聖に依存している。この状態が長く続けば、二人ともお互いをつぶしあって腐り果ててしまうかもしれない。
 それでも一緒にいたいのだ。本当は。
 手放したくなどないのだ。子供のときみたいに四六時中手元においておきたい。側に、いたいと思うのだ。
 共に永遠を過ごしたいと思うのだ。
「聖」
 もうどれくらい笑っていないだろうか。
 聖も、俺も。
 もう、そろそろやめにしようか。
 嵐が来る。戦乱という種を蒔きに。
 もし、その戦乱を二人とも無事にかいくぐることが出来たなら、やめにしよう。
 永遠の命を持つ俺たちだ。死ぬことはない。百パーセント、俺たちは生き残る。
 賭けは好きじゃないが、勝率が百パーセントならやらない手はない。
 あと少し。
 時が満ちたら、俺は愛優妃との約束を反故にしよう。
 聖と互いの望みを叶えあうために。

麗のひとりごと【その2】

多分麗の神生のすごく最後のあたり。
我儘さや傲慢さはそのまま。性格曲がってます。

でもカルーラに先にしなれたら困るんだよな。

というわけで、この台詞はないかもしれないです。

麗の独り言

ひとりよがりに間違ってたっていいと思う。

いつか、その間違いに気づくことが出来たなら、間違えることは悪いことじゃない。

でも、もし気づけずに数え切れないほどの時を過ごしてきてしまったら、それはもう、後悔という言葉だけではくくれない。

それでも、後悔する瞬間に僕は気づくことになるのだろう。

一人では気づくことは出来ないから、きっと誰かの手を借りながら、あるいはその誰かを傷つけながら、僕は己の歩んできた道の行く先を知ることになる。

そのとき。
もしそのときが僕にも訪れるのならば、せめて僕がその誰かを傷つけることがありませんように。
僕に関わって誰かが負わねばならない痛みを、全て僕自身で背負うことが出来ますように。

僕以外の誰かが傷つくくらいなら、僕は僕の殻に閉じこもってひとりよがりに世界を見つめていられればいい。
それで誰にも迷惑がかからないというのならば、僕は永遠に己の過ちになど気づけなくていい。

取り返しのつかない後悔を永遠に背負い続けるくらいなら、僕は永遠に独りのままでいい。

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