桔梗「葵ちゃん、おめでとう!」
葵「えっ、なにが? 誕生日じゃないよね?」
桔梗「違うわよ、名前よ。な・ま・え」
葵「名前?」
桔梗「今年の女の子の名付けで一番多かった名前が『葵』なんですって!」
葵「こ、今年もか…なんか照れるな」
桔梗「発音も明るいし元気な女の子に育ちそうだものね。葵ちゃん見ててもまっすぐで、とてもよい名前だと思うわ」
葵「そんなに誉めるなよ。誉めたってなにもでないぞ」
桔梗「そうそう、男子の名前の10位は『いつき』だそうよ。おめでとう、織笠くん」
樹「わぁ、ほんとなんか照れるね。時代が僕らに追い付いてきたって感じ?」
星「違うだろ、単に世代が……」
樒「わたしの名前の漢字、常用外……昔から……追加されないんだよね……」
桔梗「樒ちゃんの漢字はちょっと特殊だものね。落ち込まないで」
星「俺だって『しょう』なんてなかなか読めないし」
樹「そうだよ、僕だって読み方のランクインだし。読み方だけなら『みつき』も最近『美月』とかの変換で増えてるじゃない」
樒「あれはみづきって読むことが多いらしいよ」
宏希「おれの漢字はいそうでなかなか見ないんだよな」
徹「俺様なんてありきたりすぎて悩んだことないぜ」
維斗「三井くんらしいですね。僕は自分の名前好きですよ。北斗七星の異名ですから」
詩音「名前はかっこいいけど中身はねぇ…北極星、つまり天の中心を見つける導となる者、でしょ? 大変ねぇ」
維斗「名に見あった器となるよう精進するのみですよ。それにしても音痴な人に詩音とは都子さんも将来を見誤りましたね」
詩音「やかましい!誰が音痴よ!」
維斗「名に重すぎる宿命ですね」(と言いながら逃げ出す)
詩音「待ちなさい、こらっ」
維斗「待てと言われて誰が待つもんですか~」
(維斗詩音退場)
徹「騒がしい奴らだな…」
光「いいんじゃないの。あそこは二人でひとつの個性発揮してるんだから。夫婦漫才できなくなったら単品じゃ目立たなすぎている意味ないよ」
宏希「そこまで言わなくても。だけどあれだな、おれたちの名前って、普通にいそうな名前ってことでつけられたんだろ?」
樹「ワープロで漢字変換してたら一文字ばかりになったから、河山の宏希とか藤坂さんの桔梗とか、あとから出てきた工藤や草鈴寺さんの名前は意図的に一文字以上にしてるって聞いたよ」
桔梗「そうそう、そんな話もあったわね。夏城くんのも星か翔かで迷って、ありきたりはイヤ、でも星なんて名前につける人もあまりいないだろうしって迷った末に『星』になったのよね」
星「ネット公開するに当たっても翔にしようとしたり美月にしようとした形跡もあったな」
樒「ファンタジーゆえのリアルの追求とかいってたけど、結局馴染みすぎて変えられなかったんだよね。漢字変えたたけでもイメージがかわってしまうからって」
桔梗「そのお陰で今も変わらない私たちがいるわけだけど」
葵「なんにせよめでたいからパフェでも食いにいこうぜ」
桔梗「みんなー、葵ちゃんがおごってくれるって~」
葵「あたしはとびきりうまい店を紹介するから、財布は織笠な」
樹「えっ、僕っ? ないよ、そんなお金、僕には……」
(一同、すでにパーラーへ向かいはじめている)
樹「……人の話は最後まで聞こうよ、ね。僕、別に行かなくてもいいかな……」
維斗「何言ってるんです! 織笠くんも行きますよ!」
樹「え、僕行くなんて一言も……」
詩音「大丈夫、こういうときのためにお金持ち設定の維斗がいるんだから、遠慮なく甘えてあげて」
樹「(ぽんっ)そっか、じゃあお言葉に甘えて(にやり)」
(樹、維斗に引きずられて共々退場。その後ろを詩音が追いかける)
現オネエ系水海王の季李沙(キリシャ)さんに、どうしてオネエになったのか聞いてみました。
Q「君は何でオネエになったの?」
A「生まれ変わりたくて」
Q「なんで?」
A「だってせっかく名前も国も役割も別なものを求められているんなら、いっそ性別だって転換しちゃった方が新しい自分になれる気がしない? 服と言葉遣いと心映え一つで性別まで変えられるならやってみようって気になるでしょう?」
Q「それならどうして性転換手術までしなかったの?」
A「……そんな技術、神界にないでしょ! 安全性の問題もあるし、第一、私のこの美しい身体にたとえ手術の為でも傷をつけるなんて嫌だったのよ!」
Q「……嘘つき」
A「なんですって?」
Q「嘘つき……本当は未練があったからでしょう?」
A「何に?」
Q「好きな人、いたんでしょう?」
A「何言ってるの、そんなの心が生まれ変わった時にとっくに忘れたわ」
Q「それなら、大事な人。その人を守るために、水海王やる決心したんでしょう? 本当は違うのに」
A「そんなことは、ないわよ? 本当は違うとか、失礼な。私が本物の水海王よ。何か文句ある?」
Q「かわいくてかわいくて仕方ない妹の涼湖はんが泣いてはるんとちゃう?」
A「泣かないわよ、あの子は。強いもの」
Q「でも、涼湖はんがお兄ちゃんのこと好きだったって、気づいてはったんやろ?」
A「幼い頃は高校生ぐらいのガキでもかっこいい大人に見えるもんなのよ。幻想、幻影。あんなん初恋でもなんでもないわ」
Q「それでも寝込みにチューされたんやろ? リビングでお昼寝しとった時に」
A「戯れやし。口の端っこや。あの子のファーストキスにも入らへん」
Q「なぁ、もしかして女装してるのって、何かの拍子に会うことになっても、妹に恋心向けられないようにするため? 自戒の意味も込めて」
A「自戒って、何言うとんのん。十七歳やで? 十七歳の今を時めくモテモテ男子高校生が、何が悲しくて八歳の小学生に溺れなあかんの。呼べばすぐ来る彼女なんて指の数だけいたし、妹なんてかわいいかわいいって頭撫でてやるのが楽しかったんや。そも、涼湖と年近い従弟の成かて涼湖のこと好きやったんや。それ分かってて何で不毛な恋させなあかんの。ええんよ。俺がいない方があいつらにとってはよかったん。そやからこうして大人しう水海の国で王様してやってん。俺と同じ名前の成が涼湖と結ばれれば、それが一番ハッピーエンドやろ? あの子、早熟やったし、俺がはよ家出なあかんと思っとったん。そやから、これでよかったんやって。俺は俺にできるところからあの子を支える。あの子を守る。俺の存在意義は、生まれた時からそれだけや。大切なお姫(ひぃ)さんを守るためのナイトや。間違えても、こんなえらい恰好した変態があの子に手ぇ出しちゃあかんのや」
Q「ごちそうさまです」
登場人物の能力円形データのひな形が出ていたので、お借りしてみました。
借用元:https://twitter.com/yngwww/status/478781169564012544/photo/1
さっそく樒。
運はいいと思うんですよね。
体力はない。
協調性はある方。
行動力も引っ込み思案な割にはいざとなると動き出しますし、これから修羅場をくぐるにあたって精神力はまぁまぁあるはず。
攻撃性はあまりないと思います。(キレたら別)
性欲はまだ恋に恋するお子様なので。
知識は普通くらいにはあるかと思います。
総じて、おおむねちょっと運がいいおとなしい普通の女の子。
え、あの運命背負ってて運がいいなんておかしいって?
その運命を乗り越えられる強さの源は運な気がします。
桔梗や葵に恵まれているし、星とも出会えたしね。
夏城君……あ、今は旦那様になったので名字で呼ぶのはおかしいですよね。
星……くん(真っ赤)が最も素になる、というか子供に返ったように感情を露にするのがサッカーの試合です。特に四年に一度のW杯の盛り上がりは目を見張るほどです。
時間が合えば三井くんと佳杜菜さんがいらっしゃって一緒に見ることもありますが、そうでない仕事帰りの夜中などはビールと枝豆に見向きもしないで歓声や悲鳴をあげながら飛び上がったり頭を抱えたりしています。
三井くんたちが来たときはもう少し大人しく控えめにガッツをしたり首を振ったりしているので、わたしだけが見られるこの夏城君……あ、星くん……の姿はすごく特別でとても愛しいものなのです。
何より、あまりに試合に熱中しているので、わたしが側でにこにこ見つめていても気づきません。
ハーフタイムになると驚くほど饒舌になります。
それがまたかわいくて、わたしはうんうんと聞いています。
星くんと一緒に過ごすようになってからわたしのサッカーの知識は増えましたが、これらが全て星君の蘊蓄の賜物だと思うと、共有してきた時間の証とも思えて与えられた知識すら愛しく思うのです。
もちろん見つめてばかりじゃなく、ちゃんとテレビも見て応援しています。
「うぉぉぉぉっし! 今のプレーは……ん?」
あ、見つめてたのに気づかれちゃったみたいです。
「ううん? 今のプレーは?」
「……」
小首を傾げて続きを促してみたのですが、星くんは一瞬じっと真顔で探るようにわたしを見つめたあと、ひょいと手を伸ばしておでこに口づけを落としました。
「あとでな」
低く耳元に囁かれた声がくすぐったくて顔が熱くなるのがわかります。
でも星くんはお構いなしにまたテレビにかじりつきはじめました。
ぷっとわたしは小さく吹き出してしまいます。
大人の顔で囁いたかと思えば、あっという間に子供の顔になってサッカーの世界に入っていく。
そんな彼の姿をこんなに間近で見られるのはわたしだけでしょう。
ああ、近い未来、もう一人、そんな星くんの姿を見ることになるでしょう。
この試合に勝ったら、そのことを教えてあげようと思います。
今度はどんな顔をするのでしょう。
少年のように飛び上がって喜ぶのか、大人っぽく喜びを噛みしめるのか、それともまだわたしも見たことのない父親の顔を見せてくれるのか。
楽しみです。
同日、ちょっと前。
三井家。
徹(小児科医)「なぁ、今日樒ちゃん来てなかったか?」
佳杜菜(産婦人科医)「いらっしゃいましたよ」
徹「えっ、それってやっぱり……!!」(おもむろに携帯に手を伸ばす)
佳杜菜「無粋なことはおやめくださいませ。きっと、まだお話していませんわ」
徹「え、なんで?」
佳杜菜「今日の試合に勝ったら報告するとおっしゃっていましたから」
徹「今日……! ああ、サッカーの試合に集中させてあげるため?」
佳杜菜「それもあるのでしょうけれど、ゲン担ぎなのでは?」
徹「なるほど、勝った日に知れた方が縁起がいいもんな。でも、待てよ、もし負けたら?」
佳杜菜「勝つまでお預け……」
徹「んなわけないよな? 言うよな? うっかり俺様が口滑らしたら、父親より俺様の方が先に知っちまったこと、あいつが許すわけないもんな。うわぁ、勝ってくれ、勝ってくれよぉぉぉ~っ」
佳杜菜「勝っても負けてもあなた、おっしゃってしまいそうですわね」
徹「いや、それは、守秘義務にかけて! もし星から報告あったら、初めて聞いたようにそれはもう大げさに驚いてみせるよ!」
佳杜菜「それはむしろ勘付かれてしまうのでは? あなた隠し事下手ですもの」
徹「うっ、いや、でもがんばる。星が父親だぞ? 記念すべき初めての子だぞ? 初めては重要だ。大切だ。一回しかないからな」
佳杜菜「そうですわね。わたくしたちにとっても智(あきら)は特別な子ですものね」(ベビーサークルの中で眠る女の子をちらりと見つめる)
徹「だな。で、だな……その、二人目も特別な存在になると思うんだが……」
佳杜菜「ですわね。きっと、特別な存在になりますわ」(お腹をさする)
徹「えっ、まさか、佳杜菜ちゃん、二人目……!?」
佳杜菜「うふふ。わたくしも試合に勝ってからと思っていたのですけれど、一足早くお伝えさせていただきますわ」
徹「うぉぉぉぉっ、やったぁぁぁぁっ、ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい!」
佳杜菜「徹様、声が大きすぎますわ」
佳杜菜父「(階段の下から)どうした? 何かあったのか、佳杜菜!」(←二世帯住宅兼小児科と産婦人科の併用住宅)
佳杜菜「ほら」
徹「あ……っ(頭を掻く)お父さんとお母さんにはもう?」
佳杜菜「まだに決まっていますでしょう。こういうことは旦那様にお話をしてからと決まっております」
徹「ふぉぉっ。(ぎゅっと佳杜菜を抱きしめる)ありがとう、佳杜菜ちゃん。(腕を緩めて)よし、お父さんたちに報告に行くか!」
佳杜菜「はい!」
徹「(智をベビーサークルから抱き上げ、佳杜菜を振り返る)なぁ、佳杜菜ちゃん。俺様達さ、まさかこんな風に未来が来るなんて思わなかったよな」
佳杜菜「(ふっと微苦笑して)そうですわね」
徹「星も樒ちゃんもそうだろうな。きっと……俺様達とはまた違った想い、噛みしめるんだろうな」
佳杜菜「そう、ですわね」
徹「俺様達は、その、……俺様は、あの時生まれた子供たちを取り戻してる感じなんだ。だから、ああ、ようやく還ってきてくれたって、お帰りって、俺様は思うんだ」
(佳杜菜、そっと徹の腕を胸に抱きしめる)
徹「あいつらはさ、正真正銘、初めての、子、だろ? もっと前は一人いたみたいだけど、それだって、さ、ちょっと複雑だったみたいだし。あいつらの時間、ようやく動き出したんだな。これまで見たことも経験したこともなかった時間がーー<予言書>にもなかった時間がちゃんと訪れてるんだな」(男泣き)
佳杜菜「(ハンカチで徹の目元を拭って)お二人には感謝しませんとね」
徹「ああ。それからもう一人……(窓の向こうの空を見上げる)」
佳杜菜「いつか、きっとまたお会いになれますわ。この毎日はあの方が見守ってくださっているおかげですもの」
徹「そうだな。きっとあいつにも伝わってるよな」
佳杜菜「ええ、きっと」
徹「よし、行こうか。あ、その前に、智~、お前、お姉ちゃんになるんだぞ~」
佳杜菜「ふふふ、そうでしたわ。智、あなたお姉ちゃんになるんですのよ~」
智「(起きて、二人に小さな手を伸ばす)あ~ぶぅ~っ」
(笑いあう二人。いや、三人)
徹「行こうか」
佳杜菜「はい、徹様」
(二人の階段を降りるスリッパの音が嬉しそうに階段室にこだまする)