夫が拾ってきた金髪の見目麗しい子供を見て、あたしはいっぺんでこの子が大好きになったね。
夫に言ったら怒られるかもしれないが、あと十年若かったら恋人になりたいくらいだった。
ああ、かわいい。息子にしたい。手の届くところで育てたい。
急にむくむくとそんな心が芽生えたのさ。
しかも、目が覚めて頑としてものを食べない何も喋らないこの子を見て、これはとんだ高貴な血筋の子に違いないと思ったのさ。気位の高い王子様だ、と。
それなら、今まで凝ってきたその猜疑心を融かしてやらなきゃならないわって。
世の中、そう捨てたもんでもないんだよって、教えてやりたかった。
自ら味見をして毒が無いことを指し示し、まぁきっと
自分で飲みなといっても飲まないだろうからね、無理矢理口を開けさせて流し込んでやったのさ。
使っているスプーンが夫の作った銀製のものだったことも幸いしたようだね。
あの子は注意深くスプーンを見つめてから、後は為すがままにされていたよ。
可愛かったね。あの反抗的な目も、傷心で孤独を深めている様も。
守ってやらなきゃならないわって、思ったんだよ。
いずれ、本当のご両親にお返しする日が来たとしても、ね。
きっとこの子は神様があたしたちにお与えくださった宝物なんだと思った。
あの子は、自分を疫病神だと思っているかもしれないけれど、たとえ殺されたって、お前のことは守ってやりたいと思っていたんだよ。
こんな綺麗な子供が捨てられてるなんて、訳ありにちがいないじゃないか。
夫が拾ってきたときから、覚悟は決めていたんだよ。
だからね、苦しむことはないんだよ。
子供は守られて当たり前なんだ。
あんたこそ、今までよく頑張って生きてきたね。
甘えていいんだよ。
私たちの命が短くなったって、自分のせいだなんて思わなくていい。
あんたを拾って育てることに決めたのは、このあたしたちさ。
あんたはその分、夫とあたしの二人だけでは叶えきれなかったたくさんの夢を叶えてくれた。
あたしたちはそれだけで、もう十分なくらい幸せなんだ。
だから、キース、幸せになりなさい。
復讐なんてしてないで、あたしたちの余生だった分まで幸せに生きなさい。
忘れろって言ってんじゃないよ。
乗り越えろって言ってんだよ。
ねぇ、王子様。
あたしたちはね、一時でもあんたに「父さん、母さん」って呼んでもらえて、本当に嬉しかったんだよ。照れながらでも、ちょっと義務感を感じながらでも、呼ぼうとしてくれたその気持ちが本当に嬉しくて、本当はちょっと、どうしてこの子はあたしたちの本当の子じゃないんだろうって、思ってしまったくらいなんだ。
血筋なんてって思うかもしれないけれど、ああ、もちろんあんたをあたしたちの子じゃないって思ってたわけでもないけれど、あたしたち親だって、あんたの後ろに本当の両親の影を感じないわけじゃないんだ。
きっと、大事に育ててくれた人がいたんだって、あんたを見てれば思わずにはいられないんだよ。
ね、キース。
幸せになりなさい。
あんたは、幸せになっていいんだよ。
あんたの本当のご両親も、心からそう思っているはずだ。
だからあんたを逃がそうと、必死だったんだろう?
大人になったらね、きっと分かるよ。
あんたの歩むその道が、たとえ茨に覆われていたとしても、歩み続ければ必ず先は開ける。
茨はあんたに傷をつけて血を流させるかもしれないけれど、それでもくじけずまっすぐに歩み続ければ、いつかその先にはあんたの求めるものが待っているはずだ。
歩みを止めてはいけないよ。
行きなさい。
歩きなさい。
生き、つづけなさい。