「玄熾……貴方を愛してしまったことが私の敗因」
「貴女は真実の愛を手に入れ、私は偽りの力を手に入れた」
ああ、この人はきれいできれいできれいで、穢れを知らない人なんだ。
だからこんなにも強く輝けるんだ。
迷わず、己の掲げるものだけが正義だと信じることができるんだ。
何も知らないから。
この世界がまだきれいなままだと信じて疑わないから、だから傷つくこともない。
かわいそうな人。
太陽の光を浴びてきらきらと輝きが増すほどに、憎悪は募る。
あたしの中の陰は増す。
黒く黒く陰って、どんどん汚いものになっていく。
この人は知らない。
あたしという人もいることを。
この人は気づいていない。
あたしの中にくすぶる自分への憎悪を。
自分が、あたしの欲する全てのものを持っているということを。
望んで、望んで望んで望んで。
望んで、望んでも、決して敵わないものを持っているということを。
きれいな人。
純粋で真っ白で。
ね?
だからあたしが奪ってあげる。
真っ白なあなた。
きれいなあなた。
あたしが教えてあげる。
この世の穢い部分。
人の狭く穢い心根を。
それでもまっすぐに顔をあげてあなたの正義を掲げられるなら、やって見せてくれるがいいわ。
折れない正義に裁かれるなら、私の魂も本望というものでしょう。
「言うナヨ」
「言えませんよ」
「絶対だゾ」
「……帰ってくる気はないんですか?」
「……役立たずの姫ハ、この世界には居場所がナイ」
「今は魔法が使えない人なんて山ほどいますよ。鏡も使えませんし」
「可哀想にナ。さゾかし肩身が狭かロウ」
「それでも王様です。やめませんか、こんなこと。父さんも母さんも、今はもう新しい人生歩んでるんですよ」
「魔法石ト獄炎は紐付きダ。コウなるタメにワタシは父上ノ娘に生まレてキた」
「今はもう誰もあなたを役立たずの姫なんて呼ぶ人はいませんよ。……そんなになってまで役に立って見せたところで、誰もそうとは知らないままでしょう」
「錬が知っていればそれで十分よ」
「……姉さん……」
「負けルつモリもないガね。キヒヒヒヒヒヒ」
きっと錬は徹が容赦ない攻撃をする度に心を痛めている。
喋りそうになるのを一所懸命堪えている。
勝負には勝ち負けがつきもの。
負けたものには怨恨しか残りません。