ありがとう、麗。
ありがとう。
これで私、何も思い残すことはないわ。
何も思い残すことなく、穢された自分を嫌いになることが出来る。
大嫌いだった自分。大嫌いだった神生。
これでようやく、私、自分を思いきることが出来る。
あの人以外の痕が残ってしまったこの身体など、もうガラクタ以外の何物でもない。何の未練もなく捨てることが出来るわ。
さぁ、育、私を見て。
貴方を愛するがあまり狂い堕ちた女の様を見なさい。
見ても悔いることなどないと分かってはいるけれど、必ず後悔させてあげる。
貴方が永遠を誓ったあの女を地獄に落としてあげるわ。
この、麗に穢された身体に閉じ込めて、ね。
「くすくすくすくす、ふふふふふ、あはははは」
だから育、早く来て。
私がいなくなる前に、最期の私を見ていって。
その、蔑み果てた白い目でいいから、私を、見て?
何故こんなに貴方を好きになったのかなんて、分からない。
いつからかなんて、思い出せない。
気がついたら好きだったの。側にいられることが幸せだったの。
だって私たち、たった二人きりの兄妹だったでしょう? 他に誰もいなかったでしょう?
私と貴方が惹かれあうのは必然だったはずなのよ。父と母が同じものの手から作られたように、私たちも同じ腹から生まれているのだから、惹かれあうのは当然だったはずなのよ。
なのに、どうして貴方は私を見てくれなかったのかしら?
どうして貴方は、あの女が現れたとき、あんなに嬉しそうな顔をしたのかしら。
あの女が龍と結ばれたと知った後でも、どうしてそんなに愛おしそうにあの女を見ることが出来たのかしら?
貴方が真白いシーツを干す綺瑪にキスをしようとした時、影から私が覗いていることに気づいてやめたわよね?
どうしてやめたの?
妹の前だったから?
相手が妹の影だったから?
それとも、私が貴方のことを愛していると知っていたから?
真実なんて、どうでもいい。あのことがあったから、私、貴方の私への気持ちを都合よく曲解しているのよ?
貴方のその優しさが、いつか私だけに向けられる胸焦がす思いに変わる日が来るんじゃないかって、どれだけ期待して生きてきただろう。
遊びで人の女に手を出すくらいなら、遊びでいいから私を抱いてほしかった。
こっそりと、二人だけの秘密で。
貴方の心がほしいなんて思わない。ううん、ほしいけど、我慢するわ。貴方が私を見てくれるなら、私を、身体だけでも求めてくれるなら、私はそれだけで満足だったのよ。いつか心まで欲しいと言い出すことになったかもしれないけれど、そのときは手ひどく振ってくれて構わなかった。
妹だなんて思わないで、一人の女として冷たくしてくれれば諦めもついたのに。
貴方が妹扱いしてわたしに優しい言葉をかける度、私は崖の縁でキスされているかのようにとろけるほど甘い気分と死にそうなほど切ない気分を味わわされてきたの。
育……。
この身体に血など流れていなければ良かったのに。
そうすれば、私のことを、貴方は一人の女として見てくれたでしょうに。
「ねぇ、見て? 育。無視しないで、私のことを、ちゃんと見て?」
育、教えてよ。私がどうしてこれほどまでに貴方を好きなのか。どうして、貴方は私の心を掴んで離さないのか。
助けてよ。もう、私のことを貴方から解放して――。
輪廻転生なんかいらない。
私はもう、貴方には逢いたくない。
私はもう、ただ無に還ってしまいたい。いなくなって、しまいたい。
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