笑顔が見たい。
僕は、貴女の笑顔が見たい。
――笑って。
貴女の笑顔が見られるなら、僕はどんなことだってするよ。
どうしたらいい?
どうしたら、貴女は笑ってくれますか?
どうしたら貴女は、僕を見てくれますか?
「笑って、ください。海姉上」
そんな死人のような顔をしないでください。
せめて、僕といる時くらいは。
切に願っていたはずだった。
彼女の笑顔を見ることを。
いつも僕を笑顔にしてくれた貴女を、僕も笑顔にしてあげたかった。
育兄上じゃなきゃ駄目だってことは、分かってたよ。でも、やってみなきゃわからないじゃないか。育兄上は、いつも貴女を影で泣かせてばかりだというのに、そんな兄上に僕から貴女を笑顔にしてあげてくださいなんて言えるわけがない。それなら僕が笑わせてあげるしかないじゃないか。僕しか、貴女の苦しみに敏感じゃないんだから。他の誰も、貴女の苦しみを知らない。貴女を救おうとしない。貴女を幸せにしようとしない。
「あっははははははは、はは、あはは、あーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ、ははは、あはは、あはははは……」
そんな笑いは幸せな笑いなんかじゃない。
「姉上……」
そんな壊れた笑い方をしないでください。
「あははははははっ、麗、貴方がやったのよ。貴方が私を犯したの。私は嫌だと言ったのに、貴方が私を無理やり抱いたのよ」
「違っ……違……、姉上が、だって、姉上が……」
「くすくすくす、あはははは、ふふふふふ、」
「あね……」
「さぁ、育は何て言うかしら?」
「……ぅえ……」
「育、早く、来て。私を、助けて……?」
暗い。暗い、暗い。
記憶の底闇。
僕は、もう何も見なくていいと思った。何も聞こえなくて、いいと、思った――。
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