俺の、正義?
俺の正義は、偽りに満ちたこの世界に住む人々に負の感情が当たり前にあることを教えること。負の感情を認めさせること。
己の心に素直に生きられる世界こそが、理想の世界であることを神に認めさせること。
正の感情しか認めない神に過ちを認めさせること。
そのためならば、この魂、闇の業火にくべることも惜しくはない。
こうして己の正義に基づいて猜疑となったヨジャは、しかし長年炎に身も心も焼かれ続け、神界は間違えているという言葉だけが正義の中で残り、猜疑の炎が惑わしに囁く、
みんな誰も信じちゃいないのさ。他人も親も兄弟も友人も恋人も、果ては自分自身さえな。
信じられないなら確かめてみればいい。
ひとつ猜疑の種をまき、それでも人は人を信じかばいあえるものなのかを。
ヨジャは業火にいう。
そんなことはとっくの昔に試したことがある。
街ひとつが灰になった。
ははっ、さすがにお前は賢い。俺の器になるだけのことはある。
だが、今と昔ではまた人の気質も変わってきているかもしれないだろう?
もしかしたら、やつらは進化したかも知れない。
どうだ? 試してみないか?
人はさらに愚かになったのか。
裏切られるのは誰しも怖いものだ。それは今も昔も変わらない。
人は昔よりももっと信じることに臆病になっているかもしれないな。
お前こそ耳さわりのいい言葉ばかりならべて、いつ俺を食うつもりだ?
食っては俺は外に出られなくなる。
だからお前は俺に負けてくれるなよ。
猜疑。
お前は…悪なのか?
弱きものが己が身を守るためには、疑うことも必要なのだ。
俺は、お前が悪いだけのものには思えないのだ。
度が過ぎれば、何事も悪となる。
愛も夢も希望も、重くなればただの欲望だ。
白黒つける女神の天秤があることが間違いなのさ。
女神の天秤の存在が…
ならば、女神の天秤を破壊してしまえば、この世は生き易くなるだろうか。
そうだな。火炎法王の炎の魔宝石がその天秤の原型だという。
それさえなくなれば、人は善悪をジャッジされることもなく、己の感情に素直に生きられるようになるかもしれないな。
そうか。火炎法王の魔宝石、か。
これは炎の誘導に引っ掛かった。
猜疑は炎の魔宝石に縛られているので、なくなれば、猜疑は自由になれる。
PR