泉「そういえば、アルトのところは三人目が生まれたそうですね。何か贈り物をしなくては。何がいいと思います?」
空「ああ、それなんだけどね。実はもう私から贈ってしまったんだよ」
泉「えっ、なにを贈られたんです?」
空「名を」
泉「それはようございますね。何という名を贈ったのですか?」
空「トリム、と」
泉「”神の祝福”ですか! 素敵です! いいなぁ、帝空神様に名づけてもらえるだなんて」
空「(ちょっと間をおいて)お前の名も用意してあるんだよ」
泉「私の名、ですか? 何をおっしゃっているんです。私には泉明神如という立派な名前を付けてくださったではありませんか」
(空、無言で笑っている)
泉「変な帝空神様。そうそう、午後はあの男が来るそうです」
空「あの男?」
泉「ディック・ナイトレイ」
空「ああ、神官の」
泉「わたくし、あの男はどうも信用ならないのです。暗いというか、怖いというか、同じ部屋にいるだけで研ぎ澄まされたナイフを突きつけられているようで」
空「そう人を表面だけで恐れるものじゃないよ。すべての魂は皆同じところから始まる。真っ白な魂が生きることで色を得ていくんだ。ディック・ナイトレイという男も、何か理由があってそういう色をしているのだろう。まあ、神官になる男なのだから、それほど警戒しなくてもいいんじゃないかな」
泉「もう、帝空神様はおおらかすぎます。何でもかんでもいいところばかり見て受け入れて」
空「当り前だろう? すべてのものは、私から生まれたのだから。お前もだよ、泉明神如」
(泉明神如、赤面しながらも微妙に傷つく)
(そう遠くないその後。世界が滅びる直前)
空「お前は無から生まれた有。今後は有極神と名乗りなさい」
泉「そんな……! 何をおっしゃっているんです。この世に神は一人きり。帝空神様おひとりだけではありませんか」
空「私の世界は間もなく滅びる。お前なら無の中でも存在を保てるだろう。次はお前が神となり、新しい世界を創るのだよ」
泉「いやです! 私も帝空神様とともに参ります。どこまでも帝空神様のおそばに居りますから」
空「私の正体を知っているね? そう、無だよ。私が滅びれば、世界も滅ぶ。だけど、厳密には私は滅ぶわけではない。無に戻るだけなのだ。これからはずっとお前のそばにいるよ。お前のそばで、新しい世界が創られるのを見守っていよう。いつか、私も叶うことならば、その世界でまたお前に出会えればいいと思っているよ」
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