「風、貴方は私が嫌ではないのですか? 怖くはないのですか?」
「藍鐘和、どうしたの急に(笑)」
「私は父から〈燭濫〉を継いだときから世界中を見通す目と世界中の音を拾う耳を授かりました」
「ああ、重いね。昔から思ってたけど人には重すぎる道具だ。知りたいことも知りたくないこともお構いなく知ってしまう。どこまで話すか、どこまで飲み込むかも君次第」
「知っている、と言っているのです」
「……知ってるよ。君がそれを重荷に感じていることも知っている」
「風……!」
「聖に頼んであげようか? 僕に関する記憶を消すように、って(笑)」
「笑わないでください。笑い事ではないのです。私は貴方の……」
「知ってる人は知ってるよ。君一人の秘密じゃない。それともそれ以上の何かがあったの? 僕の知らない僕の秘密」
「風、貴方という人は……どうしてそんなにも強いのです」
「決まってるだろう。大切なものがあるからだよ」
「でもその方はもう……」
「僕が君を友と信じている理由を教えてあげようか。君はなんでも知っているからだよ。なんでも、ね。ちなみに尊敬する理由はそんな秘密を口固く自分の中に封じ込めていられるところだ。僕だったら口軽くあれこれあることないこと尾ひれはヒレつけて枕語りに面白おかしく喋ってしまうところだ」
「……貴方だったらそうでしょうね」
「で、前の僕の知り合いが闇獄主にでもなっていた?」
「……」
「誰?」
「火炎法王様が最期に戦った相手の素性がわかりました」
「……」
「闇獄十二獄主〈貪欲〉の……リセ・サラスティック」
「……」
「その昔、先代周方皇の第二皇妃でいらした方です」
「……知ってる」
「それでも貴方はまだ、私を友と呼ぶのですか?」
「試すようなことするなよ。それとも君はもう僕を友とは呼びたくない?」
「いえ、けしてそんなわけでは……」
「それとも、利用されてるとでも思った? 利用させてもくれないほど口が固かったのに」
「風」
「教えてくれてありがとう。君の口から聞けてよかった」(身を翻す)
「待て、風! 君は……どっちだ?」
「(振り返って)どっち?」
「大切なものはすでにこの世にない。君の産みの母は闇に寝返り、今や君が仕えているのは君の運命を狂わせた張本人たちだ! 君がこの世界に味方する理由などもう何もないだろう?!」
「ふっ……あはははははは。君、潜入スパイには向いてないね。誰かに頼まれた? 統仲王……は違うか。あの人は知ってて好きに泳がせるタイプだ。わざわざ確認したりしない。それならじゃあ誰かな。育兄さんとか?」
「違う。誰かに言われたわけじゃない。探れなんてそんなこと……」
「抱えきれなくなった? 僕たち親しかったものね。友達ごっこ、長かったもの」
「ごっこだなんて、そんな……」
「楽しかったよ。ありが……」
「風! 死ぬのか? お前も、死ぬつもりか?」
「はっ。冗談よしてよ。別れが辛くないようにわざときつく当たったとでも思った?」
(藍鐘和、見捨てられたような表情になる)
「やめてよ。僕が性格悪いことくらい、とっくに気づいているでしょう? 信じないでよ。信じた方がバカを見るんだ」
「それでも君は懸命に夢を見せていたじゃないか。あんなことされて、性格ねじ切れないほうがどうかしてるってのに!」
「じゃあ僕はどうかしてるんだよ。藍鐘和、ごめん、一人にしてくれないか。驚いたことに僕、少し動揺してるみたいなんだ」
「……すまない。悪かった」
「さっきの答えだけど……僕、約束したんだ。探すって。どこに生まれ変わっていても必ず探し出すって、約束したんだ。だから……死ねない(苦笑)」
(唖然とする藍鐘和)
「君は……バカか? バカなのか?」
「あはは、やっぱそう思う? 僕もそう思う(笑)君からその言葉が聞けて嬉しいよ」(立ち去っていく風)
「死ぬなよ? 死ぬんじゃないぞ、風!」
(ドア口で振り返る風)
「それは……間もなく僕が死ぬってことかな?」
「!」
「藍鐘和。僕思うんだ。神様のいる世界はもう終わりだ。だから、だからもし僕らに次があるのなら、また友達をやろう」
「風……ああ、わかった。約束だぞ? ごっこじゃなく、本当の友達だぞ?」
「ぷっ。なんだよ、本当の友達って。青春? 今更?」
(藍鐘和、風の元まで歩いていき、両肩を掴む)
「約束しろ。約束、してくれ」
「僕は君がいてくれて、とても楽だったんだ。僕のことを全て知っていてくれる人がいるお陰で、僕は誰にもそれを喋ろうとは思わなかった。僕が今まで風をやってこられたのは君のお陰なんだよ、藍鐘和。友が全てを知っていてくれる。なのに変わらず僕に接してくれる。それがどれ程嬉しかったことか。こんな僕でもよければ約束するよ。次の世だなんて縁起でもないかもしれないけど、君がそう望んでくれるのなら」
これより、風は育と共に闇獄界へ渡ることになる。
神の世は黄昏を迎え、幕を閉じようとしていた。
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