「無理をさせてしまっているわね」
「いいえ。望んで俺は風になったんです」
「一度目はあなたの母君を助けられなかった。二度目はあなたを助けられなかった」
「本来なら、俺ははじめから貴女の子として生まれるはずだったのでしょう?それなのに、なんの手違いか魔法石を宿した俺の魂は周方の第二公妃の腹に流れてしまった。ふふ。分かっているんですよ。第一公妃の嫉妬を煽ったのは貴女でしょう。まずは第二公妃を俺から引き離し、そして炎を餌に俺に人としての人生を捨てさせた」
「……母のふりをするなんて白々しいと……」
「言ってませんよ。感謝しているんです。俺を炎に引き合わせてくれたことを。あるいは、炎に出会うために俺は先に人の腹に宿ったのかもしれない。貴女の力さえも及ばない力で。でも、そのお陰で俺は迷わず俺の神生を歩むことができる。生まれる前から、俺は炎の魂を探していた。彼女のそばに寄り添いつづけることが、俺の道なんです。この執着、異常でしょう?わかってはいるんです。でも、明らかに炎が俺に苦しめられているって俺が悟るまでは……俺はこの神生降りるつもりはありませんから。貴女も悔いないでください。風になることは、俺が望んだんです。彼女に並ぶにふさわしい時間と力を手に入れるために。貴女は俺の望みを叶えてくれた。責めないでください。貴女は、堂々と俺の母親面してればいいんです」
「風……」
「そろそろ行きますね、俺。あまり炎を待たせるわけにはいかないから」
「風、ゆ……」
「許しを乞うなんてずるいですよ。俺はすでに貴女に仕返してる。血の繋がった姉と愛し合うことを、貴女に黙認させているんですから。炎だって少なからず罪悪感にさいなまれていることでしょう。これが、貴女が招いた結果なんです。あなた方の作った法に背き続ける存在を産み出したことが」
「炎を……頼みます。貴方も、どうか無理をしないで」
「分かっております、母上」
何をもって無理と言うのだろう。俺は、何一つ無理なんてしてはいない。
ただひとつ、キースのふりをすることがしんどくなってきていること以外は。
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