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聖封神儀伝専用 王様の耳はロバの耳

「聖封神儀伝」のネタバレを含む妄想小ネタ雑記。

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偽者の洋海の行動原理について

樒「ねぇね、洋海。あんた自分の偽者もう倒したんでしょう? 偽者って自分の欲望抱えてるから、ただ倒せばいいんじゃなくて受け入れることが大切だって光くん言ってたみたいだけど、洋海の偽者は一体何が望みだったの?」
洋海「え゛。俺の偽者? ああ、俺の偽者ね。俺の偽者の望みは……(思い出して)……あー、うー……」
樒「はっ。まさか人様にいえないようなこと?」
洋海「ねっ、姉ちゃんだって人様にいえないようなこと思ったことだってあるだろ?!」
樒「なに慌ててんの。そんなにやらしいこと考えてたんだー?」
洋海「十四歳だぞ? 健全な男子中学生なんだぞ? 俺だって、俺だって普通だぁぁぁぁぁぁ」
(洋海、インタビューステージから走り去る)

樒「なんっか様子変だったなぁ。まさか世界滅亡とか、世界全部俺のもの、とか馬鹿なこと考えてたんじゃないでしょうね」
桔梗「樒ちゃん、それ以上触れないであげましょうよ。洋海君、よくできた子だけど、すこし羽目外してたっていいじゃない」
樒「そう、だけどさー。でも、気になるなぁ」

(ちょっと離れた場所で)
光「言えやしない、言えやしない。守景洋海の秘めた欲望が×××だなんて、言えやしない、言えやしない」
葵「黙っといてやろうぜ、その辺は。洋海が必死で隠そうとしてるんだしさ」
光「でも、ほんとにほっといていいの? 下手すると樒おねえちゃん、一つ屋根の下だし……」
洋海「(会場の外一周して戻ってきた)そこ、誤解招くような発言やめてくれる? その言い方、まるで俺が姉ちゃんにほれてるみたいじゃん。 ないない。あの凶暴姉に恋なんて、絶対にない」
星「……凶暴姉……」
洋海「そうっすよー。夏城さんも覚悟したほうがいいですよー。見かけおっとりしてて天然ボケかましてますけど、あれ、全部計算ですから」

樒「洋海、何か言ったー?!」
洋海「ひぃぃぃぃぃっっっ」
(洋海、再び逃げ出す)

桔梗「まあ、うまく丸め込まれた気もするけれど、ほんとのところどうなの、工藤君」
維斗「どうして僕にふるんですか」
桔梗「だって貴方、統仲王でしょう?」
維斗「今、貴方と統仲王との間に『無能だけど』っていう言葉が聞こえた気がしたんですが」
桔梗「空耳って時に自分で思ってることが聞こえるらしいわよ」
維斗「ほぅ。そこまで言うなら、僕は無能ですからね。何も知りません。分かりません。〈予言書〉なんて読めません」
詩音「桔梗~。維斗もムキにならない。つまり聞きたいのは、洋海君が昔聖に片思いして結局いいように使われて捨てられた……」

樒「ひどい……」

詩音「あ」
維斗「詩音。いくらほんとでもそんな言い方がありますか」

詩音「ご、ごめん、樒ちゃんがそんなひどい人だって言うんじゃなくて」
樒「やっぱり、ひどい人だったんだ。やっぱり聖は、最低な人だったんだぁぁぁぁっっっ」
(樒、会場を飛び出す)

葵「姉弟して同じ行動パターンなんだな」
光「遺伝子の神秘」
星「……(洋海の本音が気になっているらしい)」
桔梗「もう、せっかく会場用意した甲斐のない結果になったわね」
詩音「会場って言ったって、学校の視聴覚室だけどね」
維斗「でも、ヴェルドも自ら茨の道歩いてますよねぇ」

(一同、ぎっと維斗を睨み見る)

維斗「あ、何ですか、皆さん、やっぱり気づいてらっしゃった?」

詩音「やぁね。デリカシーのない人間って」
桔梗「行きましょ、行きましょ。次の予定、立て込んでいるんだったわ」
星「はぁー(首を振ってため息)」
葵「頭よくても空気読めないと、今の世の中ダメだよな」
光「ねー」
(維斗以外、会場あとにする)

維斗「あ、あのー、(左右見回して誰もいないことを確認して)待ってくださーい、僕も次の授業行きますー」


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1-6-2直後(エルメノ)

「来る、来ない、来る、来ない、来る……」
 摘んできたタンポポの最後の花びらが足元に散っていった。
「エルメノ様、ただいま戻りました」
「お帰り、禦霊。光は、来た?」
 がくだけ残したタンポポの茎を回しながら、ぼくは顔をあげずに尋ねる。
 聞かなくたって知ってる。今禦霊は光をその背に乗せて連れてきた。僕の命もなしに、光の命を救ってきた。僕がそう望んでいると思って。
「はい」
 数秒躊躇った後、禦霊は頷いた。
「そう。よかった。それじゃ、本番の準備を始めようか――〈聚映〉」
 聚映を取り出し、等身大の鏡に自らの姿を映し出そうとした僕の手を、禦霊は唇を噛み締めて掴み、押しとどめた。
「何するの、禦霊」
「おやめください。もうこれ以上、ご自分の似影を増やさないでください」
「どうして? 影武者は必要だよ」
「似影は影武者ではありません。貴女の本当の望みの一部です。それ以上、自分自身を切り売りしたら、貴女は貴女でなくなってしまう」
「ぼくはどんなになったってぼくだよ」
「いいえ。いいえ、いいえ。今一度あなたが似影を作ってしまったら、貴女はきっと本当に望んでいたことさえ分からなくなってしまうでしょう。光は貴女に逢いに来たんです。幼年期を一緒に過ごし、トラウマになるような別れ方をしてしまった貴女にもう一度逢いに来たんです」
「なら、リタルがいなくなってしまったから、リタルを……」
「ライオンの姿にしたって同じです。貴女自身には変わりないでしょう。それに……聚映によって作り出された貴女の影でも偽である限り、麗にかけられた永遠の鎖を外すにはいたらなかった。もう、いいでしょう? もう、ご自分を許してさし上げてもいいでしょう?」
 思いを抱えきれなくなったのか、禦霊は辛そうな表情のままぼくを抱きしめた。
「ぼくは早くエルメノがいなくなってくれればいいと思ってるんだ。早く、闇獄十二獄主のエルメノ・ガルシェビチだけになればいいって」
「もう嘘はおやめください」
「生きるために、ぼくは最後まで自分を欺き続けなきゃならないんだ。ぼくが正直になれるのは、ぼくが死ぬときだけだよ。だから禦霊、それまでぼくの側から離れないでね。君は、ぼくにとっては麗の代わりなんだから」
 自分の口から次々に紡ぎだされる嘘。
 疲れたなんて思わない。もういやだなんて思わない。
 思ったら負け。ぼくの本心を欺瞞(あいつ)に知られてしまったら負け。
 これははじめからぼくだけのゲームだったんだ。
 ぼくが、いかに最後まで自滅せずに自分を欺きとおせるかという、ゲーム。本心を人に語ったらぼくの負け。禦霊にだってかけたいたくさんの言葉を飲み込んで、僕は意地悪ばかり言う。
 言えたらいいのにね。
 つかの間、三人で楽しんだ時間は思いのほかいいものだっただろう? 光がいいというのなら、戻ったっていいんだよ、と。ぼくのことなんか放り出して、あの一人じゃ立っていられない甘えっこの面倒を見に言ったっていいんだ。むしろその方がぼくだって安心できるんだから。
 だから、最後には解放してあげよう。
「ねぇ、アイカ。それから朝来こと本物のエルメノ。ぼくの汚されてない魂を分けた人たち。ぼくの似影。君たちはさ、こんなになっちゃだめだよ。偽者と呼ばれようと、本物と呼ばれようと、オリジナルから分かたれた瞬間から君たちはもうオリジナルなんだから。ちゃんと、誇りを持って生きるんだよ」
 舞台奥の壇上に置いたマジックミラーで囲んだ箱にそれぞれ閉じ込めた二人のぼくを見下ろして、ぼくは禦霊の腕をそっと押しやった。
「さあ、ラスト公演のはじまりだ」

1-6-1

麗の最期、一気に書き終わりました。
いろいろつっこみどころ満載だけど、ラストは満足。
ちゃんとアイカのところに帰るっていうの、忘れずにかけてよかった。

部分的にメモっていたものとは、麗もエルメノも真逆の心情吐露になっていますが、今回書いたほうがすごく優しいですね。
そのまま使おうか迷ったけど、流れ的になんかぶち壊しになりそうだったので、結局、お互いを思いやってるような形になりました。

ラプンツェル

「ラプンツェル、ラプンツェル。その長い髪を地上(ここ)まで垂らしておくれ」
 嫌と言うことができなかった彼女の気持ちが、わたしにはよくわかる。
 だって、その人が来てくれなければ、わたしはこの狭い部屋の中でずっと一人。鳥と話せるわけでもないわたしにできることと言えば、青空を見つめてため息をつくことだけ。
 長く伸びた髪は、誰かを連れてくることはできても、わたしをここから出すことはできない。
 でも、思うの。
 長く長くのばしたその髪を、一度根元からぶつっと切って、ベッドの脚にでもくくりつければ、自分で下に降りることもできたんじゃないかって。もちろん腕立て伏せしたりして腕の筋肉は鍛えておかなきゃ落っこちてしまうけど、でも、ラプンツェルは自力で逃げることだってできたのよ。なのに逃げなかったのは、彼女が王子様を待つお姫様気質だったから。
「やぁ、包神。元気だった?」
 だけど、わたしの場合は髪を切り落としたとて、窓の下は異次元を挟んでしまっているから無事に外に逃げられるとは限らない。その上、魔女とあてがわれた王子とが同一人物なのよ。そういう時は一体、何に救いを求めればいいの?
 王子様はどの物語を読んだってお姫様を救ってくれるのに、わたしに与えられた運命の王子様は違う。この人は、わたしに<予言書>どおり息子を産ませるためだけにここに通ってきているのよ。
 誰が言いなりになるものですか。
 たとえ生まれてから乳母とこの男しか見たことがなかったとしても、わたしは絶対にあきらめたりなんかしない。だまされたりなんかしない。
 だれが、工藤家のためだけに生きて死ぬものですか。
「おやおや、ご機嫌斜めだね。まだ怒ってるの? この間キスしたこと」
 六つ年上のこの男は、今年ようやく二十になる。外では普通の大学生をしているらしいが、人界始まって以来、この世界の監視を創造神から任せられてきた一族の若き長として、血族に連なる一家はもとより、財界政界にまで顔を利かせ、実質この世界をこの小さな島国からコントロールしている。
 わたしは、その工藤家の親戚筋にあたる草鈴寺家の長女として生まれたが、<予言書>通り、この世界に創造神である統仲王の転生をこの男との間に儲けるため、おぎゃあと泣いてからこの方、地上の明りも揺らぐほどの高みにある塔の最上階に閉じ込められつづけている。
 包神の名の通り、わたしは神を身ごもるためだけにこの世に生まれ、<予言書>によると産んだらさっさと死んでしまうらしい。
 だから学校にも行っていなければ、両親にもあったことがない。この男の口から妹が一人生まれたことは聞いたが、それ以外、家族のことはほとんど何も知らない。
 必要のない知識は与えない。何も考えることのできないようにしておくべきだ。いっそ、脳を手術してしまっては?
 工藤家の者たちは、わたしが生まれたばかりの時、そんなことまで言っていたらしい。
 もはやわたしに人権なんてありはしない。一番初めに生まれた子は生まれなかったことにしてほしいという裏取引の下、草鈴寺家にも見放され、出生届さえ出されていないわたしに戸籍はなく、学校に行く義務も課されることなく、乳母はわたしに食べ物を運ぶだけで文字はおろか物の名前さえも教えてはくれず、完全にわたしは子供を産むためだけの機械として生かされてきた。脳に手を加えられていないのは幸いだったのか、不幸だったのか。
「包神、今日は他のグリム童話も持ってきてやったぞ。それからこれは今、世界中で流行ってる魔法使いハリーの和約本と映画のDVD。DVDは最新作まであるから一緒に見ような。それから……」
 嬉々として袋から分厚い本やらDVDやらを取り出して見せている男の前で、わたしは一つ一つ、ブラウスのボタンをはずしていった。
「おいおい、なにしてるんだ。風邪ひくぞ」
「ばあやがね、ひとつだけわたしに教えてくれたことがあるの」
 わたしがそう言うと、男はあからさまに引いた顔をした。
「わたしがまだ言葉を知らなかったころ、手取り足取り教えてくれたわ。子供の作り方」
 あらわになった上半身に、男の顔は少しばかり赤くなる。
「言葉を知らなかったころって、まだ三歳かそこらだろ。そんなうちから覚えてるわけ……」
「体で覚えさせられたからよく知ってる。こうやってあなたの膝の上に座って、体を密着させて……」
「やめろ!」
 男は顔をそむけ、わたしの両肩をつかんで遠くへと押しやった。
「キス、したじゃない」
 わたしは男を詰るように見つめて言った。
「あなただって本当は思ってるんでしょ? わたしのこと、ただの統仲王降臨のための子供を産む機械だって。別に子供さえ生めば何歳で死んだって構わないから、だからあんなことしたんでしょ? キスって、子作りの一番初めにする口を塞ぐ行為じゃない! 何がキスしていい? よ。ほんとはこんな子供に付き合うのだってさっさと終わりにしたくて仕方ないんでしょ? いいわよ。やりなさいよ。それがあなたの工藤家の当主としての務めでしょ? さっさと終わらせて本当に好きな女のところに行きなさいよ!」
 男は穴があくほどわたしを見つめると、やがてぷっと吹き出した。
「ああ、なんだ、嫉妬か。誰? 玲子? 樹希? それとも弥生? おれが忘れてった携帯、中見たんだろ?」
 屈託なく笑うこの男の顔が、この時ほど小憎らしいものに思えたことは、記憶にある限り一度もない。
「わ、わざとらしくわかりやすいテーブルの上なんかに置いて行くからだ! ……珍しかったし、ちょっと開いてみたら次から次へと女の名前ばっかり……」
「大学や仕事関係で知り合った人たちだよ。この仕事してると、人脈が命だからね。で、おれの携帯は?」
 男はにこにこしたまま、おずおずとわたしがさしだした携帯を開いた。ふっと、上機嫌だった表情に影がさす。
「おれ、包神に電話のかけ方も教えてなかったっけ」
 画面に視線を落したまま親指を動かす男は、口元に苦笑を浮かべていた。
 どういう意味か、問うまでもなかった。
 先週、わたしたちは夫婦とその子供が喧嘩したり、仲良くなっていく映画を見た。見終わった後、わたしはすごく泣いてしまって、ついうっかり、「家族っていいね。お父さんとお母さんって、いいね」と言ってしまったのだ。それまで思いをはせることもなかった自分の家族のことも、少し脳裏をよぎったりしたのだ。
 男の手元を覗き込むと、発信履歴を見ているようだった。
「かけてないよ。着信履歴とかは見ちゃったけど、その人たちに電話とかはしてないから。安心して」
 気丈にそう言ってみせると、男は悲しげな表情で携帯をベッドの上に放り投げ、わたしに自分の上着を着せかけた。
「チャンスだったのに。馬鹿だな」
 チャンス――わたしが両親と電話で話す、チャンス。確かに、発信履歴と着信履歴の中には「草鈴寺」という名前も含まれていたのだ。それも、わかりやすくどちらも一番先頭に。
 この部屋はいつも誰かに監視されているから、もしわたしが家族に電話をかけたことがばれたら、たまたま自分が忘れた携帯を私が見つけて、たまたまちょっといじっていたら実の家族のもとにかけてしまったらしい、ということにでもしようと思っていたのだろう。
「馬鹿は……どっちよ。わたしは生れてもいないことになっているんでしょ? 幽霊から電話がかかってきたって、怖がられるだけよ」
「でもおれは、本当は包神にもちゃんと家族とか父親とか母親がどういうものなのか分かっておいてほしいんだ。できることならここから出して、学校にも行かせて、法的に結婚できる年まで待って、もし望むなら大学でたあとだっていい。そこでほかに心から愛する男ができたなら、おれは神の命令に背いてでも、包神の幸せを守ってやりたいんだ。なのに、俺には包神をこの結界から出す力がない。おれは工藤家の当主なのに、何一つ魔法が使えないんだ」
 心を吐き出すだけ吐きだして、男は「ごめん」とうなだれたままつぶやいた。
 知ってる。
 この男もわたしと同じだ。
 この男も、統仲王をこの世に転生させるためだけにここに存在させられている。
 子供さえ作れればいいのだ。だから、わたしをこの塔から出す力もない。むしろ情が移れば本来の責務を投げ出しかねないから、歴代頭首たちが誇ってきた神に最も近い魔力を受け継がされなかったのかもしれない。
 この男も運命に翻弄されているのだ。
「和斗はわたしに言葉を教えてくれた。文字を教えてくれた。人の心を教えてくれた。和人がわたしを人間にしてくれた。戸籍はなくても、わたしはここに生きているの。あなただけがそれを知っている。あなたがわたしを忘れないと誓ってくれるなら、わたしはそれ以上、和斗に望むことは何もない」
 統仲王の誕生予定日まで、もう一年を切っている。工藤家の当主として和斗が焦らないわけがない。
 それなのに、なかなかわたしに手を出してこないのは――。
「わたしのこと、まだ子供だと思ってる? 妹はやっぱり抱けないと思ってる? 一度だけで済むんでしょ? それくらい、我慢して頭首としてのお務め、そろそろ果たしてもいいんじゃない?」
 わたしは、工藤家の思う通りには生きない。<予言書>通りには、生きない。
 でも、結果が同じでも、その運命を選んだ理由が自分の中で明確なら、わたしは何も後悔することはない。
 和斗が来てくれる日が楽しみになって、待ち遠しくなって、一緒にいる間はつまらないことでも一緒に笑いあえて、心がくすぐったくなったりほっとしたり、かっとしたり、悲しくなったり……私はたくさんの感情に翻弄されるようになった。それもこれも、この男が無理やりではなく、少なくともわたしに望ませて子供をはらませてやりたいと心を砕いてきた結果だ。ものの見事に、わたしは和斗の術中にはまってしまった。
 それでも、後悔しないと決めたのは、この間わたしにキスした後の和斗の表情の意味をよくよく考えてのことだ。他に好きな女性がいるのなら、わたしだって応援してあげたい。わたしは言うなれば日陰の存在だけど、工藤家の当主たるもの、いずれは隣に妻を連れなければならなくなるだろう。どうせなら、和斗が愛した女性と一緒になってくれるのが一番だ。それくらいの自由はあってもいいはずだ。
 もういい加減、この関係に、ひいては包神としての人生に、わたしはピリオドを打ちたくなったのだ。
「包神。おれが初めて包神にあったとき、何歳だったか覚えてる? おれはまだ九歳だった。家で頭首としての教育施されながらもさ、ほんとは初恋も知らないどんくさいガキで、女の子にもさっぱり免疫なかったんだ。そこに来て、三歳の包神とここで引き合わされて……三歳なんて幼児もいいところなのにさ、包神はきれいだったよ。人形のように目がぱっちりしてて、髪が梳きとかされていて、おれはこの世で一番美しいものに出会えたと思ったんだ。まあ、言葉は知らない、理性はない、凶暴だしすぐ泣くし、幻か夢だったのかと思うくらいあのころのお前は野生のサル並みだったけど」
 野生のサル並み。それは仕方ない。わたしは、この男と出会うまで、問答無用ですべての文明から遠ざけられて生かされてきたのだから。三歳の時、九歳の若すぎる工藤家の当主がわたしへの教育の必要性を訴え出てくれなければ、わたしは今頃サル山のサルよりも、もしかしたら単細胞生物よりもひどいありさまだったかもしれない。
「この際だから言うけど、おれが包神に構うのは工藤家の当主だからって理由だけじゃない。責務全うするだけだったら、こんなめんどくさいことせずに包神の言う通り、さっさとやることやって同じくらいの年の女のケツ追いかけてる。キスだって何年待ったと思ってるんだ。ようやく包神の心がほどけてきたかと思ったからキスだけしたのに、現実的な行為に置き換えられちゃたまらないよ」
 声は怒ったふりを装っているけど、肩はそうでもない。
 わたしはそっと彼の背中に両腕を回した。
「和斗、大好き」
 胸に頬を押し当てて、わたしはようやく本やDVDで学んだ魔法の言葉を彼にかけた。
「おれも……大好きだよ、包神」
 わずかな沈黙の間、彼がわたしに合わせて「愛してる」を「大好き」に置き換えていたのだと気づくのは、もっとずっと後のこと。でも、そう遠くはない未来。
「でさ、おれ、早くこの魔法使いハリーの最新作見たいんだけど、最新作からかけていい?」
 抱きしめられたかと思った直後、わたしは彼の膝の上から撤去され、横のソファにちょんと座らされていた。
「いやぁ、この部屋って騒音気にせずに大音量で映画観れるじゃん? 大きくて画質のいいスクリーン運び込んであるし、やっぱ映画観るならここだよなぁ」
 いそいそと七巻からセットし始めた和斗を見て、わたしは思う。
 神様。わたしをここから連れ出してくれる運命の王子様はどこですか?
 と。
「ちょっと! ふざけないでよね。一巻から順に見るにきまってるでしょ!」
 わたしたちが一時とはいえ、本当の夫婦になる日は、そう遠くはないはずなんだけど。

『ラプンツェル、ラプンツェル、その長い髪を地上まで垂らしておくれ』
 あの物語に出会ってから、思うことが二つある。
 一つ目は、一体、わたしの両親にとってのラプンツェルは何だったのかということ。
 もう一つは、たぶん、わたしは妊娠しても一生、この塔から出ることはないのだろうということ。
 そうね。王子が高い塔から落ちて失明して、七年間も離れ離れになってしまうくらいなら、わたしは一生この塔にいて、王子の来訪を待ち続ける方がいい。
 <予言書>には、そんな未来はどこにも記されてはいないけれど、願うことはわたしにも自由なのだから。

違い(麗視点聖)

聖、お前と僕は似てるよ。
血の繋がった者への恋慕に苦しめられて、深く自分を傷つけてきた。
同じ思いをしてるんだ。僕もお前も。

だからこそ歯がゆい。
叶わないのなら、さっさと手放してしまえばいいのに。
諦めてしまえばいいのに。
お前はあの頃の僕を見ているようで、切ないよ。

叶わぬ恋は時が解決してくれるというけれど、可愛そうに、お前の場合は真に運命の男の妹として生まれてきてしまったわけだ。
それも永遠の命を持つ兄。
おまえ自身も永遠の命を持つ神の娘。
他人として生まれ変わるなんて、望むべくもない。
それも僕とエルメノのように物理的に次元を隔てて引き離されることもなければ、海姉上が全く僕を見てくれていなかったのともわけが違う。

お前と僕の最大の違い。
それは失恋をしたことがあるかどうか。

次兄の最高にいやらしいところは、叶えるつもりもないのにお前への愛を抱き続けているところだ。
どんなにお前に冷たく当たったって、お前への愛をひた隠しにしようとしているからだと周りに見抜かれてしまうようじゃ、期待したいお前ならなおさら自ら望みを絶てずに待ってしまうだろう。

失えないこと。
捨てられないこと。
負荷は時間と共に増えていき、お前を歪ませていく。

切ないね。
あまり僕を惨めにさせないでくれ。
お前の姿を見ていると、アイカを抱きしめながらも心の奥底でいつかエルメノを取り戻したいと願っている自分に気づかせられてしまう。

運命の相手って言うのは、叶えられなかった望みを記憶の中の姿に日々刻み込んでいくから、忘れられなくなるだけなんだ。
思い叶わなかったから運命と思う。ただそれだけなんだよ。

中途半端な望みほど辛いものはないね。
大きな違いを抱えていると分かっていても、僕はお前を見てるとやっぱりイライラするんだよ。
さあ、答えはわかっているんだろう?
自分がどうすれば幸せになれるか、分かっているんだろう?
求めろ。
立ち上がって、望みを果たせ。

運命の結末は、命が閉じるときまで分からないのだから。
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ユジラスカの館で「聖封神儀伝」を連載しています。
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