欲望は、一度満たされると手放せなくなる。
貪るように求めるようになる。
欲しかったのはあの人の愛。
叶わないとわかっていても、たった一人の女の座。
手放したくはなかった、たった一人の愛の結晶。
星の数ほどの男たちの前で舞を舞い、数多の男たちの心を虜にしてきた。
得られないものはないと思っていた。
皇の情さえ、手にいれた。
跡継ぎとなる皇子とてこの身から産んだ。
でも、ただ一つ得られなかったものがある。
第一王妃の玉座。
公的な場で貴方の隣に並ぶのは、私でなくてあの女。
西楔周方の皇族の血に連なる由緒正しき血統を持つあの女。
美しさも教養も芸事も、万事において秀で、第一皇子すら産んだこの私でも、どんなに望んだって得られないあの清らかさ。
そんなあの女が、皇をとられたと喚きたて、第一皇子が産まれると乳母に毒を盛らせ、果ては私ごと皇宮から追い出して暗殺を企て、狂い堕ちていく様は、憐れでもあり、快感でもあった。
でも、なりふり構わなくなったあの女を、それでもあの人は第一皇妃から降格しようとはしなかった。
所詮、私は踊り子という名の娼婦。
その女の産んだ子供を、将来皇位につける気があったのかどうかさえ、今となっては怪しい。
私が欲しかったのは、あの人の愛。
掛け値なしの、純粋な愛。
この気持ちが満たされることは、二度とない。
せめて、息子にだけは知ってほしい。
私が、位に関係なく純粋にあの人を愛していたのだということを。
望んだ玉座は、あの人の唯一の女性である意味しか持っていなかったことを。
それも、今となっては叶うべくもない。
私は〈人〉なのに長く生きすぎた。
ただ、それだけ。
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