原罪
「罪という言葉はいいわね。これほど私たちにふさわしい言葉もない」
「違う! 罪は僕だけのものだ。君に触れたいがために、僕は数多の罪を犯した。償うのは僕一人でいい」
「何を言ってるの。もうとうに二人で償ってきたじゃない。有極神に始まり、有極神に終り。運命が邪魔をして貴方は結局、あれだけの罪を犯しておきながらまだ私に触れられていない」
「それも含めて僕は償っていかなきゃ…」
「そんなに償いたいなら、今ここで私に触れなさい? 新たに罪を犯して――もう十分償ったじゃない! これだけ遠回りしても私たちは望みを叶えられなかった。ううん、叶えないようにしてたのよ。貴方が成神した夜、海に私たちを見られたあの夜、私は思い出していたのよ。貴方が綺瑪に触れたいがために犯した罪を。私は貴方に触れられたいがために、貴方の行いに目をつぶってきたことを。だから! だから、私は、私は…貴方を拒み続けるしかなかった」
「触れて、いい? それとも、もうあの時の気持ちは残っていない?」
手を伸ばした。
もうあの時ほどの高揚は感じない。僕も君も、あの時には想像もしないほどたくさんの人たちに出会ったね。僕は君以外の人を愛しもしたし、君も一度僕に背を向けると二度と振り向くことなく僕の嫉妬をかき立てるようなことばかりしてくれた。
あれだけの罪を犯したのに、僕らはまだ一番はじめの望みを叶えていない。
神を裏切った罪。
神にあらずして世界を創造した罪。
神に世界を破壊させた罪。
――触れ合えないものを、いとおしいと思ってしまった罪。
「貴方がまだ償い足りないというのなら、私も最後まで付き合うわ」
彼女はのばしかけた僕の手をとり、掌にそっと唇を押し当てた。
「今度は永遠に最後など来ないかもしれないよ」
「貴方は神。私は未完成の人間。永遠には一緒にいられない」
「そう…だね」
「だから、時がめぐればまた貴方に会いに行くことができる。貴方はときどき休暇でもとって私に…私たちに会いに来ればいい。ゆっくりと貴方の時間で過ごせばいいのよ。そしてそれでも気が狂いそうになったら、その時は全てが壊れる前に新たな神如を立てればいい。必ず私もそばにいるから」
そんな不確定な約束を彼女が口にするとは思わなかった。それでも僕は嬉しくて、ようやく彼女を抱き寄せた。
「こうやって抱きしめてみたかった。ずっとずっと、君が生まれたその時から、僕は君に触れたくて仕方なかった」
・・・彼女、てっきり彼のこと生理的にきらいなんだと思っていたよ。
好きっちゃ、好きなんだ・・・それも一生二人っきりで宇宙に残されても平気なんだ・・・
意外だ。
何か罠の気配を感じる。
(彼女:罠なんかないわよ。ほほほほほ)
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