サザが母に殺されかけた無理心中事件の後、ベリテが自分のために母子を捨てたと真相を知った龍(幼少時は法王の自覚のもとよく笑い天使のようにいつもにこにこしている愛想のよい子だった)が無理に笑っているのを見て、炎(天使のような龍に比べるとどちらかというとおとなしく内向的な少女だった)、
龍、本当はもう笑いたくなんかないんだろ?
これからはあたし(俺)がお前の分まで笑ってやる。楽しいときは思いきり、気を使わなきゃならないときはそれなりに。
だから龍、もう無理に笑うな。
お前のそれ(笑顔)は心からの笑顔じゃない。
楽しくないのに笑うな。
お前はもう笑わなくていいんだ。誰におもねる必要もない。お前は一人じゃない。誰もお前のこと見捨てたりしない。
だから、お前はお前らしくいればいい。
笑いたいなら笑え。
笑いたくないなら笑うな。
泣きたかったら……泣いていいんだ。
この世界は……正しいことだけでできてるわけじゃない。
あたしたちは気づいてしまった。
この世界は完璧じゃないって。
だから、せめてあたしと二人きりの時は思いきり泣け。怒れ。羨め。憎め。悲しめ。悔いろ。
お前一人が抱え続けられる痛み(重さ)じゃないはずだ。
だからあたしにも分けろ。
あたしはお前の分身だ。
性別は違うが、表裏一体、背中合わせの関係だ。
少しばかりこの世界に生まれでるのが早かったくらいで兄貴ぶらなくていい。
頼れ。寄りかかれ。八つ当たりしてくれたっていい。
お前のそんな笑顔は、あたしはもう見たくないん。こっちまで苦しくなる。余計泣きたくなる。
この世に正義は存在しない。正しいことなんて何一つない。全員が欲しいもの全てをてに入れられるわけないんだ。
誰かが幸せを手に入れたとき、誰かは傷つき、誰かは泣く。
幸せの総量なんて決まってるのかもしれないな。
他人の幸せまで無理に分どっても、幸せにはなれない。
きっとそういう風にできてるんだ。
お前は誰かの幸せを奪ってまで幸せでいたくはなかった。
誰かの幸せを奪っていたことすら気づかず笑って暮らしていた。
それが許せないんだろ?
気づけなかった自分が悔しくて、一番大切な友の幸せを奪っていたことが悲しくて、腹を立てているんだろ?
龍、これからはあたしがお前の分まで笑ってやる。
だからもう、笑うな。
これを聞いて、ずっと気の抜けた愛想笑いを浮かべていた龍の表情が固まり、強張り、口角がゆるゆると落ちていき、目が張り詰めたかと思うと、龍はわっと泣き出した。
僕は無力だ!無能の大馬鹿者だ!サザが好きだった!大好きだったんだ!でもお母さんのところから引き離そうなんて、そんなこと……ずっと一緒にいられたらいいと思ってたけど、でも、お母さんから奪おうなんてそんなこと、考えてもみなかった。
ベリテオーネルのことも好きだよ?大好きだよ?
でも僕はベルのこと何も知らなかった。何も知ろうと思わなかった。
目の前にいるあるがままのベルしか見てなかったんだ。
家族がいることも、奥さんや子供がいることも、その人たちを犠牲にして僕に仕えてくれていたことも、僕は何も気づかなかったんだ!
嫌われたくなくて何があっても笑顔を心がけていたけど、だって母様がそう言ったから、だけど、僕は嫌われていたんだ……僕の知らないところにいる人から……殺したいほどに憎まれていたんだ……炎、どうしよう。サザが死んじゃったら。僕をかばったせいでサザはお母さんに切られ、お母さんは愛しい子を手にかけてしまった。
報われないよ、こんなの。
おとなしく僕が切られてればよかった。
そうすれば、僕はいなくなって、ベルはおうちに帰れてサザはお父さんが帰ってきて、サザのお母さんは夫と子と死ぬまで仲良く暮らせたはずだったんだ。
炎……僕はもうこんなの嫌だよ。
誰かに憎まれるのも、自分がこんな思いするのももう嫌だ。
この世が正しいことだけじゃないのなら、せめて僕たちで正しいものをつくっていこう?
善悪をよりわけ線を引き、一人でも多くの人がラインを越えて誰かを傷つけたり自分が傷つかなくていい世界をつくっていこう?
協力してくれるよね、炎?
ああ、もちろんだ。
二人でこの世界に正義を作ろう。
それからもうひとつ、頼んでいいかな?
なに?
僕の感情、炎にあげる。僕、もう疲れちゃったんだ。
自分が笑うのも悲しむのも。
だから炎にあげる。
僕の代わりに炎はたくさん笑って?
たくさんたくさんいいことが君に訪れますように。
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