命:ハルマ
天:ウラニバルド
魔:レアミール
水:リュン
炎:カザリス
土:ダシャン
風:ワドゥル
時:エスリオッド
昔のメモ(講義中に妄想してメモってたもの)を発見。
なぜ講義に電話の請求書を持っていってたのかは永遠のなぞ。
「愛優妃。愛と優しさを兼ね備えた王のつがいとなる者」
「どうしたの。急に」
彼女は出窓によりかかって月を見上げたまま呟いた。あの様子では、部屋に現われたのがおれだとも気づいていないかもしれない。
「優しさには二つあるって学んだ。見返りを求めない愛と、自分が後で後悔しないためにかける情と。貴方のはどちらかと思って」
小さく笑って彼女はようやくおれを振り返った。
「愛はすでに名前に組み込まれてる。それなら優しさは……」
「未来、後悔することに極端におびえる子供が見せる同情」
「かもしれないわね」
「貴方はちっとも優しくないから」
「どうしたの、今日は」
「逢いたくなった」
困ったように彼女は微笑んで、おれのキスを受け入れた。
「律が見ていなきゃいいんだけど」
「見てたって関係ないだろ。それとも、妃としては王を裏切るのは良心とがめる?」
「闇の王と光の王と。私は一体どちらの妃なのかしらね」
「この世界にいる限りは闇の王の妃だろ。おれと貴女の息子の、貴女は妻だ」
「けがらわしいこと」
「変わりはしない。光の王だって貴女の兄だ」
「もう、やめて。そんなことを言いに来たのなら、帰って」
「貴女には、おれは何に見える? おれも王だよ? 闇の王の父親だ。王の父なら、おれも王だ」
「違うわ。貴方は王じゃない。貴方は王を生み出したもの。貴方は混沌。貴方は世界」
「神にもなれない」
「神は混沌に線を引くもの。神と混沌は相いれない」
「しかし、神が混沌に線を引いた結果できあがったのが世界だ。矛盾してる」
「その姿、神が理という名の線を引いた結果のものでしょう。だから、今のあなたは世界」
「愛優妃」
「なに?」
「王と妃は相いれない。神と混沌も相いれない。対になるもの。常に平等で補完しあうもの。愛優妃、その名前、変えろよ。そぐわないよ。愛も優しさも持ち合わせてない貴女には」
「それならつけて? 貴方だけが私を呼ぶための名前を」
やけに素直だった。今夜は狂っているのか、いないのか。
「月」
「月? やっぱり貴方にとって私は王のつがいなのね」
「そう、太陽の位置、強さによって形を変えるのが月。光の王が照らせば燦然と闇夜を照らし、闇の王が照らせば、漆黒の中に沈む。でも、そういう意味じゃない」
「どういう意味?」
問い返した彼女は、不安げに瞬いていた。
「おれは混沌。神と対をなすもの。貴女が光の世界に捨ててきた娘がおれの相手」
「今はもう、別の母親を持っているわ」
「いい子だった。純真で、まっすぐで、生真面目で、すぐ壊れてしまいそうだった」
「好きになった?」
おれはじっと彼女を見下ろして、もう一度その赤い唇を吸った。
「闇も光も飲み込むのが混沌。愛優妃、おれはあの子が好きだよ。助けてあげたいと思うよ」
「助けてあげて」
「でも、愛すことはできないと思う。おれがあの子に感じているのは憐憫だ。貴女の名にある優しさしかあの子にはあげられない」
「十分よ。あの方には想う方がおられるようだから」
「おれの相手はいつもそうだ。おれはいつも一方通行」
「愛されたいの?」
「愛されたい。貴方に。優しさではなく、愛を与えてほしい」
「……私は月。それなら、貴方が太陽になればいい。私の太陽に」
炎がヴェルパを崖から落としてしまうことは前々から決まっていたけれど、書いていて、ほんとに書いていいのか迷い迷いになってしまった。
いくらキースが死んで錯乱状態にあるとはいえ、いいのか、あれで、と。
きっと年齢のせいなんだろうな・・・道徳や倫理に関して、10年前よりも自分の中で厳しくなっているもの。
剣一つふるわせて相手を傷つけさせることですら最近は躊躇してしまう。大義名分があればいいのか、とか、戦争時であればいいのか、とか。
攻撃という二文字の使用を避けて、上のようにより生々しい表現になってしまったりするのも、気にしてるからなんだろう。
大人になるって、許容できる範囲がいいことも悪いことも狭くなることだったんすね。きっと。
鏡幻の魔術師の第6章あたりのBGMは、
柴崎コウの「月のしずく」「Sweet Mom」「ひと恋めぐり」「影」をループしてました。
光版の終章のみ、FUNKY MONKEY BABYSの「希望の唄」です。
ずっと柴崎コウできてたんですが、終章に入った途端にあの明るい風が吹き込んでくるメロディが頭の中で鳴り出したんですよね。
終章の雰囲気もそんな勢いを感じていただけるといいな。